<お話を伺った方>
合同会社未来教育デザイン 代表社員 平井 聡一郎 様
「学校を変えるには、まず管理職が変わらなければならない」
そんな強い危機感から生まれたのが、現職の校長や教頭などを対象とした「学校版MBAスクールリーダーシッププログラム(以下、学校版MBA)」です。公立学校の校長などを歴任した合同会社未来教育デザインの平井聡一郎さんが、デジタルインテリジェンス(DQ)教育のリーディングカンパニーである株式会社サイバーフェリックスと共に立ち上げました。
利益というKPIが存在しない学校組織において、いかにして管理職にマネジメント意識をインストールするのか。「学校版MBA」では、第2期よりチームタクトを導入し、対話と振り返りを重視したメンタリングを開始しました。
日本の教育変革の最前線を走る平井さんに、次世代リーダー育成の本質と、チームタクトによって実現した「質の高い振り返り」の価値について、伺いました。
概要
<課題>
- 経営視点の欠如
- 管理職が、成果やデータに基づく組織経営を学ぶ機会がない。
- 管理職の孤立
- 管理職が自校に留まってしまいがちで、他校の取り組みを知る機会がない。
- 情報のフロー化
- チャットツールでは対話が流れてしまい(フロー型)、情報が蓄積されない。
<活用成果>
- 提案力の向上
- 感覚ではなく「データ」に基づく論理的な提案力を身に付いた。
- ネットワーク形成
- 他校とのネットワーク形成を実現し、プログラム終了後も続く「斜め・横のつながり」が生まれた。
- メンタリングの連鎖
- 「対話と気づき」による指導手法を他者にも還元できるようになりメンタリングの連鎖を生んだ。
<チームタクト活用のポイント>
- 振り返りAI分析の活用
- 振り返りAI分析機能を活用し、参加者の客観的な自己点検と運営側の的確なフォローを実現した。
- 学習履歴のストック
- 情報がストック型となり、学習履歴の一元管理ができた。
- 閲覧範囲のコントロール
- 閲覧範囲の設定により、個人ワークと他者との学び合いを柔軟に切り替えた。
プレイヤー気質からの脱却。「データとビジョン」で語る次世代リーダーへ
―「学校版MBA」を立ち上げられた背景を教えてください。
日本の学校教育の最大の課題は、「学校は利益を求めない聖域だ」という思い込みが根強いことです。その結果、企業でいう「利益」にあたる「成果に対する責任」が希薄になりがちです。
国が示す学習指導要領という目標に向かって、自校のリソースをどう配分し、どのような教育活動を展開して子供たちの力を伸ばすか。これはまさに「経営」そのものです。
ところが、教員が管理職になる過程で、マネジメントや経営戦略を体系的に学ぶ機会はほとんどありません。多くは現場での経験則や、独学に頼っているのが現状です。昨日まで教科を教えていた先生がいきなり管理職に登用され、今日から組織のマネジメントを求められる。これでは無理があります。
私がこれまで見てきた「優れた学校」や「面白い実践をしている学校」には、必ずと言っていいほど好奇心旺盛で常識にとらわれないユニークな校長がいました。彼らは外の世界を知り、新しいことに果敢に挑戦するリーダーです。
そうした「経営者視点」を持つリーダーを育てるためには、異業種の知見も含めた広い視野と、データに基づいた論理的なスキルが必要です。そうしたスキルを教育者が学ぶ場にしたいと考え「学校版MBA」を始めました。

―確かに、教科担当の教員から管理職への意識転換は難しそうです。
教員は、ある意味で「個人事業主」のような側面があります。学級経営や教科経営において、自分の裁量で判断し、実践する。それは素晴らしいことですが、組織全体として見た時に、経営感覚を持って動けているかというと疑問が残ります。
だからこそ、経営者視点への切り替えが必要なのです。ビジョンを描き、具体的な活動に落とし込み、データに基づいて検証・改善していく。 「今年の学年は出来る子が多い」だとか、「今年はだめ」といった感覚的な総括で終わらせず、その真因は何なのかを突き詰める。そのためには、経験や勘ではなく「データ」が必要です。
今まで見えなかったものを数値化・可視化するということは、自身の指導不足や経営の甘さを直視することでもあり、ある種の「痛み」を伴います。しかし、その痛みを受け入れ、データに基づいて改善策を打てるリーダーでなければ、これからの学校経営は務まりません。
「振り返りAI分析」結果をフィードバックの参考に
―学校版MBAではどのようなプログラムを実施されているのでしょうか。
次世代リーダーに必要な①探究能力②問題発見・解決能力③言語化能力④情報活用能力を養うため、3つの柱でプログラムを構成しています。
1つ目は、多様な講師陣から経営のエッセンスを学ぶ「講義」。2つ目は、実際に変革が起きている現場を肌で感じる「スクールツアー」。そして3つ目が、プログラム期間を通じてグループ/個人単位で継続的に行う「メンタリング」です。
参加者は、約半年にわたるオンライン・オフラインでの活動通じて、自ら見出した課題への探究を深め、プログラムの最後にはその成果を全員の前で発表します。
単なるインプットに留めず、現場の熱量に触れ、対話を通じて自らの思考を深めていく。このサイクルを回すことで、4つのスキルが着実に身に付くよう設計しています。

―プログラムの基盤としてチームタクトを導入された理由を教えてください。
第1期ではチャットツールなどを組み合わせて運用していましたが、課題は「情報が流れてしまう」ことでした。 大人の学び、特にリーダーシップの育成において重要なのは、実践・振り返り・修正のサイクルを回すこと。そのためには、思考の履歴が決して流れず、いつでも立ち戻れる「ストック情報」として残る場所が必要でした。
そこで、連絡から課題提出まで一元管理でき、かつ「振り返り」の蓄積に適したチームタクトを導入しました。

―運用において、特にこだわった点はありますか。
あえてフォーマットを固めず、白紙に近い自由度の高いものにしました。型にはめてしまうと、単なる「穴埋め作業」になって思考が狭まってしまうからです。文字だけでびっしりと書く人もいれば、図解や写真を貼り付けて表現する人も出てくる。この「表現の自由度」によって、参加者の思考の個性を引き出す狙いがありました。
また、チームタクトは閲覧範囲を柔軟に設定できるため、まずは個人の思考に集中させ、後に全体で共有して学び合うといった、質の高い対話のサイクルを状況に応じて作ることができました。
さらに、今回はトライアル的な活用でしたが、運営側として可能性を感じたのは「振り返りAI分析」です。参加者には自ら記述した記述内容を、チームタクトの「振り返りAI分析」機能を使って自己点検するように促しました。振り返り内容が感情的か、論理的か。深いのか浅いのか。定性的な活動をデータとして可視化できる点は、今後参加者のフォローをしていく上でも、非常に強力な武器になると感じました。

―平井先生は以前から「振り返り」の重要性を説かれていますね。
AIが発達すれば「答え」はすぐに手に入ります。しかし、「問い」を立てる力や、自分自身の経験から「意味」を見出す力は、人間にしか持ち得ません。その力を養う唯一の方法が「振り返り」だからです。
学校現場でも「振り返り」は重視されていますが、多くの場合、紙に書かせて終わり、あるいは先生がハンコを押して終わりになっています。それではデータとして分析できませんし、資産として残りません。ログとして残すことで初めて、過去の自分との比較といった深い分析が可能になるのです。その意味でもチームタクトは参加者の振り返りを促進していたと思います。
孤独な管理職を救う思考の壁打ちと学び合い
―プログラムの核であるメンタリングの工夫について教えてください。
参加者には専属メンターがつき、日々の実践に対する「壁打ち相手」となります。鉄則は「答えを教えない」こと。「なぜそう思ったの?」と問いかけ続け、相手に自ら気づかせます。チームタクト上でも、メンターは安易に答えを書かず、時には沈黙して参加者の思考が深まるのを待ちます。
よく授業や発表の後に、条件反射で「はい、拍手」で終わらせる場面がありますよね。私はあれが大嫌いなんです(笑)。中身も聞かずに拍手をするのは、何の学びもありません。「今の発表のどこが良かったのか」「自分とはどう違うのか」を考え、言語化してフィードバックする。そこまでやって初めて「承認」や「学び合い」になるはずです。

―参加者同士の「学び合い」は生まれましたか。
校長や教頭という立場は、校内では非常に孤独です。
だからこそ、利害関係のない外部メンターには弱音も含めて本音をさらけ出し、一方で全体チャットでは同じ志を持つ仲間と励まし合う。この「両輪」が機能したことで、他校の管理職がどのような課題を持ち、どう解決しようとしているのか、そのリアルな思考プロセスを覗き見ることができました。
自然と横のつながりが生まれ、プログラム終了後も続くネットワークが形成されたことは、子供たちの授業だけでなく、大人の研修においても「協働学習」が極めて有効であるということですよね。
「痛み」を伴うフィードバックが人を育てる
―プログラムを通じて、参加者にはどのような変化が見られましたか。
ある教頭先生の例をお話ししましょう。彼は、自校の校長(上司)を説得して新しいプロジェクトを始めたいと考えていました。以前なら熱意だけでぶつかって玉砕していたかもしれませんが、このプログラムのメンタリングを通じて「データで語る」手法を徹底的に叩き込まれました。
「なぜ必要なのか」「どんな効果が見込めるのか」をエビデンスベースで説明し、見事に校長を説得。学校全体を動かすプロジェクトを始動させました。
ほかにも、対話の重要性に気づき教員同士がフラットに話せる場「教員カフェ」を自校に設置した人もいます。
また、自分自身がメンティ(受ける側)として、問いかけによる気づきを得たことで、今度は自らがメンターとして活動し始めるという素晴らしい循環も生まれています。
第1期の受講生が次の期で参加者を導く側に回ったり、自校の現場に戻って部下や子供たちに対して同じ接し方を実践したりしているのです。
「指示命令」ではなく「対話と気づき」による指導。管理職が変われば、学校の空気も変わり、最終的には子供たちの学びも変わる。その確かな手応えを感じています

チームタクトが拓く「大人のリスキリング」
―最後に、今後の展望とメッセージをお願いします。
チームタクトは、教員研修や大人のリスキリングにおける強力なインフラになると感じました。「研修を受けて終わり」にせず、現場での実践と結果をデータとして記録し、定着させる「学習転移」に不可欠だからです。
特に、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)が求められる学校経営において、「感覚」ではなく「データ」で語る習慣をつけるためにも、こうしたツールを使いこなすことは管理職の必須スキルになるでしょう。
学校の中だけで完結する教育は、もう限界です。「井の中の蛙」を打破し、学校と社会が混ざり合うエコシステムを作らなければなりません。
具体的には、企業の経営者や人事担当者にもメンターや講師として参加してもらい、「学校×企業」の化学反応を起こしたい。企業の人材育成ノウハウを学校に取り入れ、逆に学校の先生方が持つ「公教育への使命感」や「利他の精神」は、企業人にとっても大きな刺激になるはずです。
チームタクトのようなプラットフォーム上で、「大人の学び合い」が広がり、それが日本の教育、ひいては社会全体を変える原動力になることを期待しています。痛みや摩擦を恐れず、覚悟を持って変革に挑むリーダーたちが世の中に増えるよう、応援していきます。





.jpg)



































.webp)














