大成建設株式会社 人事部 人財研修センター長
田中康夫 様
※所属名称は取材当時の名称です。

育成制度・コミュニケーションに課題を感じていた大成建設株式会社。人財研修センター長 田中康夫さんは、育成制度改革の一環として、G-POP版グループリフレクション(以下、G-POPぐるり)とチームタクトを若手社員のOJTで活用しました。

本プロジェクトを推進した田中康夫さんに、お話を伺いました。

実施概要
OJT改革 G-POP運用プロジェクト
フェーズ 1 2 3
期間 2023年12月~2024年3月 2024年4月~2025年3月 2025年4月~
対象者(メンティ) 5年次社員 事務系総合職入社1・2年目社員 事務系総合職と土木系社員入社1・2年目、建築系営業社員
対象者(メンター※) 人事部数名、8,9年次の社員 公募制・先輩社員から選出 公募制・先輩社員から選出
参加人数 43 120 191

※メンターがグループリフレクションにおけるファシリテーター役を担う

概要

<課題>

  • OJTを実施しても、継続しない、形骸化する。
  • 内容が不十分でトレーニーの側の成長実感につながっていない。
  • 業界の人材不足問題対策として人材の定着を図りたい

<活用成果>

  • 入社1~8年目の若手社員の離職率が8%から3.5%へ低減した。(自律型OJTを導入した社員の離職はゼロ)
  • 業務振り返りを継続的に行うことを仕組み化できた。
  • 若手社員同士コミュニケーションを促進し、関係性を向上に寄与。例年同時期と比較して離職は低下。

<チームタクト活用のポイント>

  1. 直感的な操作性のため、参加者への一斉導入でも操作に関する問い合わせがほとんどなかった。
  2. トレーニーの状況が素早くリアルタイムで把握でき、確認の手間が減った。
  3. 全国の拠点をつないで、どの場所にいてもコミュニケーション・メンタリングできる環境をつくることができた。

Off-JT(研修)だけでなく、「OJTも変える」

大成建設G-POPぐるり導入プロジェクトが発足した背景を教えてください。

経営層は「自律的なキャリア形成」「先輩が後輩を育てる文化醸成・仕組み」に課題を感じていました。ある経営幹部から「育成と人事制度を一本化して欲しい」と依頼された私は、すぐに育成制度改革に着手。2023年7月当時、私はエネルギー関連の部署から人事へ異動したばかりでした。

Off-JT(研修)を中心に動いていたところ、OJTにも課題があると気がつきました。OJTは、個々の指導力に委ねてしまっていたのもあり、取り組み不足、継続性のなさ、形骸化など、変えるべきポイントが複数あったのです。

トレーニー側からも「成長実感が得られない」との声もあがっていました。

そこで、書店へ行き、OJTの本を端から端まで購入して、文字通りずらっと読んでいきました。読み進めるうちに、一風変わった本に出会いました。中尾さんの『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』です。

読了後の第一印象は「面白そう」でしたね。ほかの本には、OJTの定義など、一般的な話が書いてある中で、中尾さんの本には、G-POPやグループコーチング(グループリフレクション)の話が出てきて、「自分で考える・気づく」というアプローチが印象的でした。

しかも、全てオンラインで実施できるツール「チームタクト」の紹介も書いてあり、「各地の建設現場で働いている社員が多い当社に合っているな」とも思いましたね。

導入まで凄いスピードでしたね。スタートアップのようなスピード感だと思いました。

もともと2024年2月に、5年次研修が計画されていました。「この研修までにG-POPぐるりを実施できたら、全社導入前のトライアルになる」と思い、G-POPぐるりを事前課題にしました。

キックオフを経て、12月からグループリフレクションをスタートしました。オンラインで毎週1時間、4人1チームで集まり、G-POPシート(※1)に基づいた振り返りを3か月間実施しました。

※1 参加者のG-POPシート

参加者の“意識と行動”が変化
仕事に対する気づきや自己肯定感UPも

G-POPぐるりを実施し、参加者自身にどのような変化がありましたか?

前向きな話が増えましたね。それが非常に良かったです。

開始当初、「G-POPシートの使い方がよくわからない」と言っていた参加者も、チームタクト上のほかの参加者が書いたシートを見たり、私の振り返りを聞いているうちに、少しずつ理解していきました。

参加者の中には「自分なりに1つでも目標を立てて行動する」「目標を習慣化するために、前向きに取り組んでみる」社員も複数現れるようになりました。

また「成長を実感できた」「何をすべきか理解できた」「良い点、悪い点に気がつけた」という気づきや自己肯定感の高まりを感想にあげる参加者もいました。

田中さんもほぼ全てのチームに参加し、振り返りをされていましたよね。なぜ、プロジェクトオーナーである田中さんが自らチームに入ったのでしょう?また、参加してみていかがでしたか。

「始めたばかりなのに、レベルに差があるのは、どうしてだろう?」と気になったからです。また、私もグループリフレクションを実践していなかったので「実際にやってみよう」と思いました。

ほぼ全てのグループに、参加しました。実際に参加してみて、レベルが上がっている参加者は、週を追うごとに少しずつ変化していると気づきました。前週に書いた「次のアクション」を、次週に実行してみて、結果を振り返っていました。

これはすごい変化です。

“仕事”って、振り返らないですよね。やったら終わりになることが多いと思います。グループリフレクションでは、再現可能性と再発防止の観点で振り返りを行います。

「なぜ、うまくできたのか?」

「なぜ、うまくできなかったのか?同じことが起きたら、今度はどうするか?」

私自身、振り返りの仕組み化が成長を後押ししていると感じています。

場所が離れていてもOJTできる
コミュニケーションを闊達にするチームタクト

「チームタクト」でグループリフレクションを行うメリットは何でしたか?

書き途中のものがリアルタイムで見れるのは、すごく利便性が高いなと思いましたね。例えばExcelで個人個人に課題を渡すと、ファイルを格納して、開いて、ということを何度もしなければならない。それをしなくていいのは、メリットですね。

一覧画面でリアルタイムで状況をみることで、まず、回答が埋まっているかどうかをみて埋まっていそうな人から詳細を見に行きます。連続で次々に見れますから、手間が少ないなと感じました。

とにかくスピード感をもって進めていたのもあり、正直チームタクトの使い方は充分に説明ができないまま導入をしたのですが、クレームはありませんでした。これは、素晴らしいことですよね。私もなんとなく触ってみれば、こうやれば文章かけるんだ、こうして線を引くんだなど、操作はすぐわかりましたが、みなも直感的に操作できたのでしょう。

また、チームタクトとZoomを使って遠隔でグループリフレクションを実施できるっていうのは画期的でした。弊社は、建設現場が全国にあります。通常OJTを実施する際には、メンターが物理的に隣にいる場面が多いと思います。この場合、コミュニケーションはその場、その人限りで途切れてしまいますよね。でも、オンラインであれば、北海道の人が九州の人をメンタリングすることもできる。まさに、DXです。

メンターの方はどのようにチームタクトを活用していましたか。

メンターも使い勝手がいいといっていました。メンターとしてグループのメンバーを見る際ももちろんですが、メンター同士でも、この人の内容がいいね、この人今忙しそうだけど大丈夫かな?など、そういう話が気軽にできるってのが、いいと思います。

グループリフレクションは「褒めてもらえる場」
参加者の自尊心・自己効力感が向上

プロジェクトを進めて、どのような気づきやメリットがありましたか?

プロジェクトを進めていくうちに、当社にない発想を得られました。取り入れたいポイントが見つかった点もよかったですね。

当社は歴史ある会社のため、慣例に従っているケースもあります。例えば、会議は役職者が話し、そうでない社員はほとんど発言しません。

一方、グループリフレクションに派遣いただいたファシリテーターの方々は「人を褒める」「楽しい会議にする」という発想をもって、場をつくっておられました。グループリフレクションではファシリテーターは参加者の均等に発言を促す重要な役割です。グループリフレクションで振り返りをする前に、チェックインとして「24時間以内にあった感謝」を一人ひとりが話す仕組みがあります。どのグループも自然と前向きな雰囲気が醸成されていたのも、当社にはない仕組みだったので、良い気づきをもらえました。

参加者の中には「毎回たくさん褒めてもらえるので、自尊心が上がった」「自己効力感が上がるので、毎週のグループリフレクションが楽しみ」と言っていた社員もいましたね。

グループリフレクションの仕組みは素晴らしいですよね。「全員の発言量を同じにする」「話を遮らずに聞く」「発言の後は、“感じたこと”を共有する」というルールがあるので、マネージャーもメンバーの話をしっかりと聞くことができます。

部下が話をしているとき「きみの論理には矛盾がある」と水を差すこともできないので、マネージャーにとっても「聞く」を学ぶ良い機会になります。グループリフレクションは「話を聞くこと」が仕組み化されていて、素晴らしいと感じました。

効果を感じ、対象者を拡張

対象範囲を拡張しようと考えた決め手は何でしょうか?

G-POPぐるりの効果を感じたからです。目の前で、自律的に考えられる人に変わっていったので、「これはいい」と思いましたね。

メンター制度と組み合わせてG-POPぐるりをスタートさせました。

G-POPぐるりとメンター制度と組み合わせて、貴社独自の進化をさせたのですね。

メンターは自ら「メンターになりたい」と立候補してくれた4〜8年目の31人の社員にお願いしました。

立候補した理由を尋ねると「新人時代の自分が悩んでいた悩みと同じ悩みを持つ人がいれば、力になりたい」と話してくれました。「後輩の力になりたい」と、想いをもった社員が多くいるのです。非常にうれしいですね。

メンターは立候補した社員だけで構成されているので、みなモチベーションが高いのが特徴です。メンター社員向けのキックオフでは、建設的で、活発な意見交換がされました。1時間では足りないくらいでしたね。

そして、その後メンター制度をさらに強化しました。

「メンティ・メンター合同キックオフ(G-POPぐるりの参加者とファシリテーターが一堂に会す場)」は、動機づけや相互理解を促すプログラムを充実させ実施しました。

プロのファシリテーターによるオリエンテーションや、グループで取り組むワークショップなどを実施しました。知識のインプットに留まらず、メンター制度を通じて「大成建設をどのような会社にしたいか」を深く考え、自身の関わり方を明確に言語化してもらいました。これは、大成建設のビジョンの核である「人が人を育てる」文化を、彼ら自身に担っていってほしいという想いからです。

この機会によって、G-POPぐるりの活動がより良い形で自律的に発展していくことを願っています。

(メンター・メンティ向けの説明会、ワークショップの様子)

素晴らしいですね。1、2年次若手社員とメンター社員(先輩社員)の方の斜めの関係ができるのもいいですね。

当社は縦割りの組織なので、今までは同じ配属先の先輩だけを知っている状態でした。ですが、メンターとは配属先が異なるため、斜めの関係ができていきます。“支店”や“同期”の関係ではない絆が深まるのではないかと期待しています。コミュニケーションが良くなっていくとうれしいですね。

さまざまなものが合わさった効果だとは思いますが、今回実施した1、2年次社員はすごく仲がいいです。 離職者も1人も出ていません。(2024年6月末現在)

課題を見つけるヒントにG-POPの記述分析を活用

G-POPレポート・G-POPサマリのデータはどのように活用しましたか

G-POPレポートでは基準が示されるのがいいですよね。より良い振り返りを書くためのアドバイスで、文字量などはわかりやすい基準です。基準があることにより、自分の状況はどうなのかと振り返ることができるので、より振り返りを深めるきっかけになると思います。

G-POPサマリでは傾向も見えてきました。今1、2年次社員に実施していて私が課題に感じているのは、ゴール設定とプレ(事前準備)の質です。まだまだ、ゴール設定がうまくできない社員が多い。業務ではゴールをしっかりたてなければ、結果や振り返りが実りあるものになりません。そんな課題に気付くきっかけになりました。

「G-POPレポート」とは、チームタクト上のG-POPシートの記述内容と交流の結果を分析したレポートです。『内省する力』を独自のAI技術で判定・フィードバックします。このレポートにより、自分の内省の記述がどうだったかをスムーズに自己点検ができ、改善に向けたアクションを行うことができます。

G-POPレポートには他者から学びをとりいれるためのヒントも書かれます。
「他者の良かったPreとPostに学ぶ」「人気のG-POPに学ぶ」「多様性に学ぶ」という切り口で、他者のシートから学びが得られる仕組みになっています。
G-POPレポート

成長の輪を広げ、会社全体のパフォーマンスの向上へ

今後の展望を教えてください。

この取り組みに賛同してくれる方が増え、メンターやメンバーが人事の管理外でも自主的に取り組んでいるような状況になるのが理想です。一人ひとりが自分をきちんと振り返ることができるようになれば、自律的に成長すると思うのですよね。G-POPぐるりは成功体験が共有される仕組みです。ほかの人の真似をしてみようと、どんどん広まっていけば、個人の成長だけではなく、集団がパワーアップする。ひいては会社全体のパフォーマンスがあがる。私は、このような循環をつくることに貢献していきたいと思います。

こうした循環をつくるためには、メンター制度、グループコーチングの取り組みと、ツールとをうまく組み合わせるのが肝だと思っています。どれか1つが欠けてしまうと成り立たなくなってしまう。ぜひこのうまい組み合わせを試行錯誤し、実現に力を入れていきたいです。

OJTやコミュニケーションを変えたい会社におすすめ

どのような企業にチームタクトを使ったG-POPぐるりをおすすめしますか?

そうですね、以下のような企業におすすめしたいです。

  • OJTに課題感を持っている会社
  • 社員のコミュニケーションに不安がある会社
  • メンバー個人と組織全体の成長を可視化したい会社

当社は社内コミュニケーションの改革も進めています。経営層のコミュニケーションは変わってきていますが、経営層以下にも変化が生じるには、まだ時間を要すると考えています。

しかし、グループリフレクションで社員の笑顔を見たとき、組織内のコミュニケーションが変革していくことを確信しました。実際に、若手社員でG-POPぐるりを本格導入した結果、離職率の低減にもつながり、効果を実感しています。

社員が笑顔で働く姿が至るところで見られるようになったら、周囲に派生し組織全体の雰囲気も変わることでしょう。今後も、社員同士が良い関係性を築き、働きやすい組織の中で、会社が目指す共通の目標に向かって力強く推進していけるようになることを目指していきます。

このように、組織全体のコミュニケーションを変えて、社員が「仕事は楽しい」と心から思える会社にしたいという企業にこそ、特におすすめしたいですね。

(注)

▼G-POPとは

「G-POP(ジーポップ)」とは、株式会社リクルートテクノロジーズの元代表取締役社長であり、株式会社中尾マネジメント研究所代表の中尾隆一郎氏が提唱している、高業績を挙げ続けられる人・組織の振り返りの型です。

「G-POP」とは、以下の4つの頭文字をとった造語です。

・Goal(ゴール・目的)
・Pre(事前準備)
・On(実行・カイゼン)
・Post(振り返り)

高業績を挙げ続けられる人・組織は、常にGoalを意識し、Pre(事前準備)に時間を使い、柔軟にOn(実行・修正)を行い、Post(振り返り)から成功・失敗のポイントを学び、仕事の成功確率を高めるとしています。

▼G-POPシートとは

G-POPの内容を記入するシートです。

▼グループリフレクション(ぐるり)とは

グループリフレクションとは、ファシリテーターの進行に沿い、個人が経験したことや気付いたことを共有し、グループで対話を通じて内省(リフレクション)を深める手法です。

発表者が行った振り返りの内容に対し、他の参加者が感じたことを伝えることで他者の視点に触れ、新たな気づきや学びを得ます。テキストや口頭で言語化することでお互いの業務や考えに対する理解を深め、関係性を構築・強化します。チームタクトではグループリフレクションを通じて、個人の内省力の向上と相互理解を深める場づくりを行う支援を行っています。