<お話を伺った方>
東京貿易ホールディングス株式会社 代表取締役社長執行役員 坪内秀介さん
東京貿易ホールディングス株式会社 執行役員 グループ人事部長 高橋一則さん
(以下、敬称略)
東京貿易ホールディングス株式会社は、2024年に策定した中期経営計画に向け、次期幹部を育成・発掘を目的としたサクセッションプロジェクトを2024年10月から2月にかけて実施しました。本プロジェクトでは、ホールディングスおよびグループ会社の取締役、執行役員、本部長、部長クラスが「チームタクト」を使ったG-POPグループリフレクション(以下G-POPぐるり)に取り組みました。今回は、同社代表取締役社長執行役員 坪内秀介さんに、プロジェクトの目的や、実施後の組織の変化について伺うとともに、執行役員 グループ人事部長 高橋一則さんにチームタクトの具体的な活用方法について伺いました。
概要
<目的>
- 次期幹部が目標達成の強い意思を持ち、マネジメントの手法を習得する。
- 社員一人ひとりが新規事業を考えられる土台をつくる。
<活用成果>
- グループ会社間で事業と人との理解が深まった。
- 経営者層がメンバーを理解し、次期経営者層の発掘につながった。
- 学ぶ気持ちが強い参加者が、地理的要因や時間に左右されず、他者から学べた。
<チームタクト活用のポイント>
- プレゼン資料の作成が、チーム間の刺激になった。
- G-POPぐるりにより、経営者層がメンバーの状況や悩みを把握できた。
サクセッションプロジェクトでマネジメントを学び、組織の課題が自分事化
―なぜサクセッションプロジェクトを実施することにしたのですか?
坪内:当社は、2027年までの中期経営計画として「東京貿易グループが培ってきた強みである、事業開発マインドと顧客の事業インフラを支える機能を提供する事業収益モデルを併せ持つ、社会課題・顧客課題を解決する事業開発型商社グループになり、社会に不可欠なインフラ・モノづくり・安全安心に グループならではの差別化されたアプローチで価値を提供する」ことを掲げています。
これを実現させるためには、次期幹部が目標達成への強い意欲を持つと同時に、マネジメントの手法を習得することが不可欠だと考えています。
また、社員一人ひとりが、既存事業の延長だけではなく、新規事業を自ら生み出せる土台をつくることも必要です。
そのためには、机上の理論学習に留まらず、社員のモチベーションを高める研修を提供することが必須でした。講義を聞くだけではなく、プロジェクトとして取り組むことで、新たな気付きを得られると考え、今回のプロジェクト実施に至りました。
―プロジェクトを行ってみていかがでしたか?
坪内:改めて、人材育成の重要性を感じました。人が成長しない会社で、事業や収益が伸びることはありえません。
私自身、経験していない事業については未知の部分もあります。これまで人材育成の重要性に対する意識が低かった面があったからです。後進の幹部たちには、きちんとマネジメントを学び、会社全体を俯瞰できるようになってほしいと考えています。
また、価値観が多様化し、何が正解なのかが一概に言えない時代です。そのような中、自ら考え行動できる人材を育てることは非常に大切です。そのためには、KPIやKGIといった、マネジメントに必要な知識を学び、一人ひとりが成果を出すための行動を実践していく必要があると考えました。
高橋:今回、研修終了後に参加者から前向きな感想が寄せられました。とくに、グループ会社を超えた交流が生まれたことで、ほかのグループ会社の事業についての理解が進んだようです。自分事化して、具体的な行動に落とし込む準備ができたのではないでしょうか。
学習意欲の高い参加者同士が、場所や時間に左右されずに互いに学び合える
―G-POPぐるりをどのように行いましたか?
高橋:10月から2月までの約5カ月間、ホールディングスおよびグループ会社の取締役、執行役員、本部長、部長など23人が参加しました。ファシリテーターはプロを派遣していただき、グループ会社混合の全6チームで、毎週G-POPぐるりを実施しました。
坪内:今回のプロジェクトの総括として、最終日にはチームごとに、グループ会社の5年後・10年後のビジョンについてプレゼンを行うことになっていました。プロジェクトの後半には、各メンバーのゴールにこのプレゼン準備について書かれることが増え、メンバーみんなでプロジェクトをマネジメントする場にもなりました。
割り当てられたチームの対象会社が自身の所属会社と異なっていたため、所属していないグループ会社について考える良い機会となったようです。

―G-POPぐるりでチームタクトを使ったことで、どのような効果を感じましたか?
高橋:参加者同士お互いのアウトプットを閲覧できることで、協働学習がしやすいと感じました。とくに、学ぶ気持ちが強い参加者にとっては、場所や時間に左右されず、ほかの参加者から学べる良い仕組みができています。
5カ月間同じメンバーで取り組んだこともあり、これまで面識がなかった人同士でも仲間意識が芽生えたのではないでしょうか。今後も経営幹部同士の良い繋がりが続いていくことを期待しています。
また、参加者の学習状況をグループ会社の経営者層が閲覧できるため、それぞれの様子を把握しやすいことも魅力です。
参加者の活動状況や、普段は聞くことができない悩みや業務の話が、チームタクト上で言語化されて大変参考になりました。
G-POPぐるりとは別に、プレゼンテーション用にチームタクトを活用しました。中間課題があり、チームタクト上で資料を作成します。課題提出前から準備してブラッシュアップしていくチームもあり、そのようなチームを見て刺激を受けたチームもあるようです。対象となっている会社の幹部からポジティブなコメントが書き込まれることもあり、23人全員でがんばろうという雰囲気が醸成されていることを実感しました。
最終プレゼンテーションは対面で行いましたが、資料はチームタクト上で提出してもらいました。このときも、中間課題と同様、他チームの資料を途中で見られるため切磋琢磨する雰囲気があったのではないかと思います。
―参加した方は、G-POPぐるりについてどのような感想を持っていましたか?
坪内:「G-POPぐるりを続けていきたい」と言っている人もいます。学習意欲がある人なのだと思います。
プロジェクト全体を見ていても、困っていることや悩んでいることがあると、アンテナが立っているので情報をキャッチしやすくなりますね。自身の業務や会社の今後について疑問を持っている人は、学びを素直に受け入れています。
高橋:ファシリテーターからは「参加者同士がフラットな関係を築けているようだった」「お互いに対する興味や、グループ会社の仕事に対する理解や共感が進んだのではないか」といった意見をいただきました。私自身も、グループ会社同士の相互理解が進んだことは感じています。
AI分析やフィードバックをモチベーションアップに活用
―AI分析による総括レポートはいかがでしたか?
高橋:「G-POPマトリクス」では、AIから参加者コメントを客観的に分析した「自律度」と「達成度」の4象限のマトリクスの結果と支援方針が提案されました。期間中毎週、振り返りをAI分析してフィードバックされる内容を、参加者にも共有しました。G-POPぐるりの中で「AIに言われたことがもっともだと感じて、行動を変えた」と話す人もいて、客観的かつ適切なフィードバックの意義を強く感じました。

―「G-POPマトリクス」をどのように活用したいと思いますか?
高橋:参加姿勢が多様であったため、すべてをそのまま受け止めることは難しい部分があります。
とはいえ、どのように支援すれば効果的かがわかったので、活動支援や称賛の方法の参考にして、モチベーションアップにつながるよう活用したいと思います。
一人ひとりが目標達成に向けて考えるための土台をつくる
―プロジェクトを実施した成果をどのように捉えていますか?
坪内:2027年に向けた中期経営計画を達成するために、グループ全体を再編してセグメント経営をスタートしました。セグメント戦略企画チームで各グループ会社の目標を実現していく戦略をもう一度しっかりと見直しています。
今回のプロジェクトを通して、幹部候補の人材を見つけることができました。彼らに共通しているのは、「学ぼうとする姿勢」です。学びたいという気持ちが強い社員は、これからどんどん成長すると思います。
そのような社員たちで、引き続きG-POPぐるりを行うことも考えています。他者の進捗が見えてモチベーションにつながり、強みを活かし合っていけるのではないでしょうか。
プロジェクトで学んだ結果、参加者が「KPI」という言葉をよく使うようになりました。しかし、本当に正しくKPIについて理解しているのか疑問に思うところはあります。
目標をしっかり定めて、それを達成するためのKPIは何か、そのKPIは目標達成にどれだけインパクトがあるか、最も効果的なKPIを見極められる幹部候補を増やしていきたいと思います。
―今後の目標やビジョンについてお聞かせください。
坪内:大きな目標は、100周年を迎える2047年に売上を1兆円にすることです。
そのころには私は社長ではないでしょう。しかし、社長を務めているあいだに、その目標を達成できるベースを築きたいと思っています。
私は、社長に就任したときから、「社員を幸せにする会社」をつくりたいと考えています。社員を幸せにする良い会社にするためにはどうしたら良いのかと考えると、会社が成長し、社会から求められることが必要です。
会社が成長するためには、お客さまから価値を感じていただかなくてはなりません。そのために、求められている新規事業を社員が自ら考えられるような土台を築きたいと思っています。既存事業の延長だけではなく、新しい発想が生まれる環境を創造したいのです。社員それぞれが自身の能力を最大限に発揮できて、個人も会社も成長できるよう、今後も引き続き取り組んでいきます。
(注)
▼G-POPとは
「G-POP(ジーポップ)」とは、株式会社リクルートテクノロジーズの元代表取締役社長であり、株式会社中尾マネジメント研究所代表の中尾隆一郎氏が提唱している、高業績を挙げ続けられる人・組織の振り返りの型です。
「G-POP」とは、以下の4つの頭文字をとった造語です。
・Goal(ゴール・目的)
・Pre(事前準備)
・On(実行・カイゼン)
・Post(振り返り)
高業績を挙げ続けられる人・組織は、常にGoalを意識し、Pre(事前準備)に時間を使い、柔軟にOn(実行・修正)を行い、Post(振り返り)から成功・失敗のポイントを学び、仕事の成功確率を高めるとしています。
▼G-POPシートとは
G-POPの内容を記入するシートです。

▼グループリフレクション(ぐるり)とは
グループリフレクションとは、ファシリテーターの進行に沿い、個人が経験したことや気付いたことを共有し、グループで対話を通じて内省(リフレクション)を深める手法です。
発表者が行った振り返りの内容に対し、他の参加者が感じたことを伝えることで他者の視点に触れ、新たな気づきや学びを得ます。テキストや口頭で言語化することでお互いの業務や考えに対する理解を深め、関係性を構築・強化します。チームタクトではグループリフレクションを通じて、個人の内省力の向上と相互理解を深める場づくりを行う支援を行っています。