<お話を伺った方>
生活協同組合コープさっぽろ 執行役員 組織本部 本部長 緒方恵美さん
(以下、敬称略)
生活協同組合コープさっぽろ 執行役員 組織本部 本部長の緒方恵美さんは、2023年G-POPぐるりの展開をスタート。自身が当時部長を務める広報部での導入から始め、対象を組織内全体に拡大し参加者を募り、活動の輪を広げています。さらに、ファシリテーター(以下、ファシリ)による振り返り会も開催し、職員個人の成長はもちろん、部署を超えた人間関係の構築やチームビルディング、マネージャー育成にも奏功しています。緒方さんに、導入から拡大までの経緯ならびに、取り組みの効果について伺いました。
概要
<課題>
- 部署間の連携を強化したい。
- マネジメント層を育てたい。
- 職員の心の充足、マインド形成をしたい。
<活用成果>
- 他部署との連携および情報共有が強化された。
- ファシリテーターがチームビルディングを意識するようになり、マネージャー育成に繋がる。
- メンバーの帰属意識の高まりや、ポジティブな心の変容に寄与。
<チームタクト活用のポイント>
- 部署メンバーのシートを見て、行動や気持ちを把握する。
- 変化したメンバーについて、変化の過程をテキストマイニングできる。
- G-POPぐるりに参加できないメンバーもシート記入とコメントでつながりを維持。
最初は乗り気ではなかった職員も、いまではハイパフォーマーに
―組織内でG-POPぐるりを導入した経緯や目的について教えてください。
2022年4月、私は中尾塾で「G-POPぐるり」という4名一組のグループリフレクションの手法に出会い、1年間実践してきました。毎週定期的に、他者と対話をし1時間で凝縮されたナレッジを得られるので、業務外の学びの場として活用していました。自分の考えていることや感情などを肯定され、勇気づけられる贅沢な時間でもありました。
G-POPぐるりの効果を実感した私は、これを職場の組織づくりに活かしたいと考え、自部署にて取り組みをスタートすることにしました。
―G-POPぐるりを始めたとき、職員の皆さんの反応はいかがでしたか?
G-POPぐるりを始めた当初は、ネガティブな反応を示す職員もいました。
そこで、私は自分の経験を語り、G-POPぐるりを通して得られる成長や変化を個別に話すことにしました。
G-POPぐるりの良いところは、普段の業務ではなかなか味わえない成長体験ができることです。
例えば、私はG-POPぐるりの対話を通して、偶然にも有益な発見(セレンディピティ)を得ることができました。学習するぞ、という姿勢を取らなくても、振り返りを行い共有するだけで、思いがけない学びやアドバイスが得られ、1段上がるように導いてもらえる感覚があったのです。
初めての取り組みなので、言葉で説明するだけで理解を得るのは難しいと感じました。「まずは試してみよう」と提案し、実際に体験してもらうことにしました。開始当初は、毎回のG-POPぐるりのはじめに「この場の目的」を再確認するようにして意識づけを行いました。
すると、最初は乗り気ではなかった職員も、G-POPぐるりを続けるうちにハイパフォーマーに成長しています。3カ月ほど経つと腹落ちしたようで、楽しさを見出しているようでした。今では、メンバーとして参加するだけではなく、ファシリテーター役も積極的に引き受けてくれるまでになっています。非常にうれしい変化でした。
私にとって導入時にメンバーからさまざまな意見をもらえたことは、貴重な経験でした。疑問や反対意見を言える雰囲気を醸成させることは、チームビルディングにおいても重要です。メンバーとじっくり話し合う時間を持てたので、お互いの理解を深めることができました。
―部署内でスタートし、その後組織全体へ広げていっているそうですね。どのように広げていますか?
最初は部署内だけで行っていましたが、半年ほど経つと、メンバーがG-POPぐるりに慣れてきて、楽しんで参加するようになりました。一方で、G-POPぐるりが業務報告の延長線上にあるように感じ始めたため、人事部との合同開催に切り替えました。
その後、ほかの部署にも声をかけ、さまざまな部署からメンバーが集まりました。現在では、7つのチームでG-POPぐるりを実施しています。半年に1回程度、なるべく初対面の他部署メンバーと交流できるよう、チーム替えをしています。継続して参加する人もいれば、お休みする人も。目的意識を持って納得して参加することが大切だと考えているため、参加はそれぞれの意思に任せています。
参加者の傾向を見ると、上司がG-POPぐるりに参加している場合、メンバーの継続率が高い傾向があります。上司が取り組みの価値を理解していると、高い熱量でメンバーに勧めているようです。今後は、上司も巻き込みながらさらに広げていきたいです。
関係性強化による業務連携やナレッジ共有が活発化
―G-POPぐるりを行うことにより、どのような変化が見られますか?
G-POPぐるりを実施することで、職員一人ひとりの成長、そして組織全体の活性化に繋がるような、さまざまな良い変化が見られています。
まず、チームワークの向上です。複数人でG-POPぐるりを行う中で、メンバー同士で共助の気持ちが自然と育ち、業務においても協力しやすくなるようです。また、他部署をまたいでの連携も強化されています。G-POPぐるりで生まれた繋がりをきっかけに、部署間で情報交換や勉強会が行われるなど、シナジー効果も見受けられます。
さらに、人間関係も良くなっているようです。同じグループメンバー同士で、食事に行った、なんてことも。G-POPぐるり以外にも親睦を深める時間が持たれ、自然な形で絆が深まっているのではないかと思います。特に、入協後間もない方の変化は顕著です。新入職員がG-POPぐるりに参加することで、早期に組織に馴染み、仲間意識や帰属意識を高めることができているのでしょう。組織や業務の理解を深めながら、仲間を増やすことができる場となっています。
興味深いことに、G-POPぐるりに意欲的に参加している人は、業務の進捗も良好な傾向があります。G-POPぐるりの場で自分の仕事や目標について深く考えることが、仕事のパフォーマンス向上に繋がっているのでしょう。
G-POPぐるりは、参加者一人ひとりにとって多様な意味を持つ場となっています。自分の話を聞いてもらうことで癒しを感じたり、上司や同僚には言いにくい悩みを打ち明けられる場として捉えたりと、それぞれ魅力を感じているようです。自分なりの有益な場として活用し、成長につなげていってほしいと思っています。
ファシリテーター同士での情報共有が、部署メンバーのフォローに寄与
―ファシリテーターの振り返りはなぜ始めたのですか?
G-POPぐるりをより良い場にするためには、ファシリテーターの役割が重要です。そこで、ファシリテーターのスキルアップを目的として、振り返り会(以下、ファシリ振り返り会)を始めました。G-POPぐるりのファシリテーターは、業務でマネジメントレイヤーの方にお願いしており、このファシリ振り返り会がマネジメントにも役立つのではないかと考えました。
このファシリ振り返り会は、G-POPぐるりと同じ流れで進めています。中尾塾でもファシリテーターを務めるファシリテーションプロフェッショナルな方が進行役を務めてくださっており、ファシリテーターとしての心構えをレクチャーいただいたり、グループをどのように導いていきたいかなどを話し合います。ファシリテーターとしての在り方や考え方は、個人の意思を尊重しています。それぞれが独自のスタイルを持ち、互いに良い点を学び合っています。
―ファシリ振り返り会によって、どのような効果が出ていますか?
ファシリ振り返り会はファシリテーターの観察力やコミュニケーション能力が向上し、メンバーへのサポート体制が強化されG-POPぐるりの質を高めるだけでなく、組織全体にも好影響を与えています。
まず、メンバー個々の今の状況や心の変容を把握できるのが素晴らしい効果だと思います。
振り返りシートの内容だけでなく、参加中の態度や表情から、仕事で困っていることや悩んでいることに気付くことができます。例えば、普段は元気そうに見えていても、実は何か困っているといった情報が共有されることで、よりきめ細やかなマネジメントが可能になります。
また、自然とファシリテーターのみんなが自主的に人事のような動きをしてくれるようになり、全員で組織をマネジメントしているような感覚が生まれています。このような動きのおかげか、G-POPぐるりの参加メンバーに退職者はいません。
さらに、ファシリ振り返り会は、将来のマネジメント層育成にも役立っています。ファシリテーターの経験を通して、チームビルディングやメンバー育成のスキルを学ぶことができ、実務のマネジメント業務に役立つヒントをたくさん得られます。先日、G-POPぐるりをうまく活用しているメンバー2人をファシリテーターに任命しましたが、3回ほどファシリテーションを行うと意識が変わっていきました。今後、マネジメントを担うメンバーの良い助走期間の位置づけとなっています。
G-POPぐるりは、業務では気づかなかったメンバーの隠れた才能やリーダーシップを引き出す場としても機能しています。
例えば、あるファシリテーターは、穏やかに話を聞く姿勢がメンバーからの信頼を得ていて、サーバント型のリーダーとしての適性があることに気づきました。みんなを引っ張っていくタイプのリーダーシップが目立つ一方で、このような静かなリーダーシップは、G-POPぐるりのような場だからこそ発見できたと言えるでしょう。個性豊かなファシリテーターが、それぞれのスタイルでG-POPぐるりを運営することで、多様なリーダーシップが育まれています。

見やすく使いやすいチームタクトにより、テキストマイニングが可能に
―チームタクトはどのように活用していますか?
チームタクトは、G-POPぐるりの振り返りやファシリ振り返り会で、メンバー同士が感想や意見を共有するために活用しています。
以前はスプレッドシートを使っていましたが、書き込むだけで終わってしまい、振り返りや交流が活発化しませんでした。そこで1年ほど経ったころ、チームタクトに切り替えました。
チームタクトでは、G-POPシートに記入した内容を簡単に共有し、コメントで意見交換することができます。これにより、メンバー同士の相互理解が深まり、振り返りがより効果的なものになりました。ファシリ振り返り会では、チームタクトのコメント欄に、ほかの参加者がコメントし、議事録を取るような感覚で記入しています。何を言っていたかが残るので、後から見返すこともでき議論の内容を共有しやすくなりました。この使い方をG-POPぐるりに取り入れているファシリもいるようです。

―チームタクトの良さはどのようなところだと思いますか? また、どのような効果やメリットがありますか?
シンプルでわかりやすいことです。見やすく、書きやすく、探しやすいため、G-POPぐるりの効果を高めるのに役立っています。
チームタクトを使うようになり、他者のシートも見やすいので、ぜひ見るように声を掛けるようになっています。とくにファシリは、業務ではマネジメント層なので、自部署メンバーのシートを積極的に見ています。
ツールが使いづらいと、G-POPぐるり自体を面倒だと思われてしまいます。チームタクトは、直感的に使い方がわかるので、G-POPぐるりへの参加を促しやすいのはありがたいことです。
また、チームタクトを使うことで、メンバーの心の変化を時系列で追うことができます。シートの内容やコメントから、仕事へのモチベーションや取り組み方の変化を読み取ることができ、テキストマイニングをしているかのように、メンバーの状況を深く理解することができます。チームタクトで流れを追うと、いつから変化しているかもわかります。落ち込んでいる人のシートを見ると、その背景にあることが読み取れます。仕事のパフォーマンスが上がった人のシートからは、いつから仕事の取り組み方が変わったかが見えてきます。
また、忙しくてG-POPぐるりに参加できなくても、シートは必ず書いている人もいます。こうした参加したいという想いは、周囲に伝わっているのでしょう。グループメンバーは欠席した方のシートにコメントを書こうという団結感が生まれています。参加できない場合でも、チームタクトでシートを共有することで、メンバーとの繋がりを維持することができます。
価値を理解してもらい、徐々に輪を広げる
―今後、G-POPぐるりやチームタクトをどのように活用していきたいと思いますか?
G-POPぐるりは、多くの職員に良い変化をもたらしているので、今後さらに広げていきたいと考えています。
特に、中途入協者が多い部署やチームワークがうまくいっていない部署には、積極的に勧めていきたいと思っています。ただし、強制するものではありません。良いものだと納得して、自分なりに活用する気概をもって参加してもらうことが目標です。半信半疑で参加している人は、あえて楽しそうに取り組んでいる人と同じグループにします。楽しそうな人の前向きな取り組みを見て「この人みたいになりたい」と、プラスの影響を与えられるのではないかと考えています。
G-POPぐるりに参加しても、この場をうまく使いこなすまでに時間がかかることもあります。
使いこなすには、マインド形成が必要なのですよね。仕事を充実させるために、他者の意見を聞くことの価値があることに気づく必要があります。G-POPぐるりは、働きやすさや前向きさ、心の豊かさなど、数値化できない効果をもたらします。仕事への向き合い方と自分への向き合い方は似ています。G-POPぐるりに参加して、自分と仕事に向き合うことで、心の豊かさを得られるのではないでしょうか。
広報部では、最初G-POPぐるりを導入する時に声をかけたのみで、その後は全員が自発的に活動を続けています。
人事部長もG-POPぐるりに参加することになり、組織内の人材育成活動として、より一層の広がりが期待されます。
中途および新卒の新入職員が参加しやすいよう、体系化していけると良いですね。良いものだという確信があるので、焦らずゆっくり広げていきたいです。
自律型人材を育成し、チーム力を向上させたい組織におすすめ
―G-POPぐるりやチームタクトをどのような組織や企業に勧めたいと思いますか?
自走できる組織をつくりたい人におすすめです。
メンバー一人ひとりが自分で考え、積極的に行動するような、自律的な組織を目指している方には最適ではないでしょうか。日々の業務を振り返り、その意味や目的を考え、他者と共有することが視野を広げることに繋がります。
G-POPぐるりは肯定されポジティブなフィードバックを送り合う場です。自分の行動をプレゼンして褒められることは、大人になるとなかなかありません。前向きなエネルギーをもらえると同時に、良い場づくりのためにポジティブな行動をするようになります。逆に、失敗してしまったときや心が弱っているときには、励まされ、がんばったところを認めてもらえます。
メンバーとしてはセルフマネジメントを強化する場でもあり、ファシリテーターとしてマネジメントの練習ができる場でもあります。互いを認め合い、高め合うポジティブなサイクルが回っていくことで、チームワークも自然と向上していくでしょう。
(注)
※G-POP は、株式会社中尾マネジメント研究所の登録商標です。
※1 G-POPグループリフレクション(G-POPぐるり)
<特長>
・4人1組で毎週1時間、専用のG-POPシート(※2)に記載して順番に発表・感じたことをコメントし合うことで、それぞれのゴールに向けた、定期的で、質の高い振り返りによるセルフマネジメントの習慣化を支援します。
・メンバー同士のコメントから自分1人では得られない気づきを得られます。
ハイパフォーマーの仕事の進め方であるG-POPをフォーマット化。記載することで、ハイパフォーマーの仕事の進め方が習得できます。
※2 G-POPシート
