キャリア(仕事)中心の生活に子育てが加わると、一人で何役もこなす=多重ロールの「見えない壁」を感じるようになります。「キャリアも育児も大事」な社会を目指すコミュニティーikumadoでは、「ikumadoシェアコーチング」を実施し、メンバーが「べき」を越えて「らしく」生きることを応援しあっています。タイムマネジメント、マルチタスクマネジメントの能力を高める場として、参加者の好評を得ています。
ikumado代表の千木良直子さん、運営メンバーの中川純子さんに、ikumadoシェアコーチングを始めてから現在に至る経緯、チームタクトの活用方法についてお聞きしました。
概要
<課題>
- 多重ロールを抱える人のためのコミュニティーを活性化したい。
- シェアコーチングの運営を効果的に行いたい。
<活用成果>
- 直接会ったことのない人でも、互いを知り、交流することができた。
- 仕事を依頼するなどシェアコーチング外も活動が広がり、コミュニティーに循環が生まれた。
<チームタクト活用のポイント>
- 振り返りを記載するシートのフォーマットを効率的に設定・配布
- 相互閲覧を促進して、メンバー同士の交流を活性化
子育てしたい?昇進したい?選択を迫る社会の固定観念を変えたい
ーikumadoならびにCOEOについてご説明ください。
千木良:ikumadoは、「キャリアも育児も大事」な社会をつくることをミッションに、2018年にスタートした無期限無料のオンラインコミュニティーです。結婚出産すると、育児かキャリアかの選択をつきつけられる、私自身も感じたこの社会の「フツー」を変えたいと思い、立ち上げました。Facebookの非公開グループに約1,250名(2024年10月時点)にご参加いただいています。
株式会社COEOは、ikumadoの運営を持続可能にすること、社会を変え続けることをゴールに、2021年4月に創業しました。事業の中核は企業様からのアウトソーシングを担うチーム複業です。気心知れたikumadoメンバーとのチームワークにより、上述のikumadoシェアコーチングの運営をはじめ、クライアントのWEBサイト「カスタマーボイス」の制作をはじめとしたWEBライティングや、いくつかの企業様のダイバーシティ研修の提供などを行っています。
ーikumadoシェアコーチングとはどのような取り組みですか?
千木良:週1回1時間、4人1組で行うグループコーチングです。チームタクトで各自が事前に1週間の振り返りを記入します。当日Zoomで、ファシリテーター進行の元、各自5分ずつ発表し、それに対して他の参加者が「感じたこと」をシェアします。1ターム4カ月間で、最終週にはチーム横断振り返り会とオフラインでのリアル振り返り会も開催しています。
「忙しすぎてできない」の壁を越えて「忙しいならやり方を変える」に変容
ーikumadoシェアコーチングを始めた背景には、どのような社会課題がありますか?
千木良:能力が高いがゆえに、できる人ほどすべてを一人で引き受けてしまい、「できない」ジレンマに陥るように思います。
世の中は依然として、自分や家族を後回しにしてでも、長時間働いて担当の仕事は責任を持って完璧にやり切る人が「できる人」という風潮があります。また、育児は女性がやるものという暗黙の前提がまだまだあります。
そのような風潮に悩んでいる方がシェアコーチングを行うことで、自分がやりたいことを認識し、やらなくて良いことの優先順位判断するきっかけになると考えました。
ーikumadoシェアコーチングにはどのような方が参加していますか?
千木良:多重ロールで、どこへ行っても何をしても、まずは「ごめんなさい」があいさつ代わりになっている状態の人が多いように見えます。自分軸より、他人軸で生きている状態です。
中川:子育て世代はキャリアと子育てで忙しく、周囲とゆっくり話す時間を持てません。私も始めた頃はそんな一人で、組織・家族・キャリアへの様々な想いを溜め込み、孤独と不安で行き詰っていました。私と同じように自分の想いを整理したくて参加する人は多いと感じます。最近は、「セルフマネジメントをできるようになりたい」と明確な目的を持って参加されているメンバーも増えている印象です。
日々の小さな変化をキャッチする ikumadoらしい成長の場づくり
ーikumadoシェアコーチングを始めてから、これまでの経緯を教えてください。
千木良:ikumadoの初年度に、メンバーの復職に際して、週1回オンラインで集まってキャリアや子育ての振り返りとこれからについて話す「復職支援ミーティング(毎週定例振り返り会)」を設けました。
マイキャリア期①→産休育休期→子育て両立期→子供自立後のマイキャリア期②を想定して、中長期の人生計画を話すつもりでした。しかし、実際は、日々のモヤモヤや気づきなどの「よもやま話」に手応えが感じられました。社会を変えるには、まず個人の日々の小さな変化をキャッチすることが必須です。それならば、中長期の計画よりも毎週の振り返りをメインにしたいと思い始めたのです。
並行して、私自身が参加していた、自分が心から取り組みたいことを考えるコミュニティー「ありえる楽考」で、グループコーチングの良さを感じていました。また、それを実践するツールとしてのチームタクトの魅力も実感していました。
そこで、ikumadoでも2020年4月にチームタクトを導入して、「ikumadoシェアコーチング(以下、SC)」と名付けて行うことにしたのです。
個々が自分らしくシートを活用、お互いを見守りやすいチームタクト
ーSCでは、チームタクトでどのようなシートを活用していますか?
千木良:SCでは、たまかつシート(※1)、G-POP®シート(※2)、各自のオリジナルシートと、複数のシートを活用しています。各自が自由にシートを選択しているので、チームタクトで一覧を見渡せるのは大変助かります。
※1 たまかつシート
1つの事象に絞って、起きた事実と、それに対してどう感じたかを深堀し、新たな気づきや発見を得て、自己理解を深めることができます。
※2 G-POP®シート
「G-POP®」とは、株式会社中尾マネジメント研究所代表の中尾隆一郎氏が提唱している、高業績を挙げ続けられる人・組織の振り返りの型です。
「G-POP®」とは、以下の4つの頭文字をとった造語です。
Goal(ゴール・目的)
Pre(事前準備)
On(実行・カイゼン)
Post(振返り)
高業績を挙げ続けられる人・組織は、常にゴールを意識し、Pre(事前準備)に時間を使い、柔軟にOn(実行・修正)を行い、Post(振返り)から成功・失敗のポイントを学び、仕事の成功確率を高めるとしています。
G-POP®は株式会社中尾マネジメント研究所の登録商標です。
ーチームタクトを活用してよかったことを教えてください。
千木良:コミュニティーに循環が生まれていることです。1on1とは違い、チームで行うことの魅力です。チームタクトで自然と自己開示され、お互いが見えやすいのです。
育休中の人が復職後の人のシートを見るなど、お互いに学び合えるのに好都合でもあります。
シートから、その人の考え方や仕事の進め方を感じられるので、チーム複業の人財獲得に向けて、安心して仕事のオファーを出せます。
中川:チームタクトはフォーマットをつくりやすいことも助かっています。フォーマットのデザインを画像で取り込み、テキスト入力箇所を入れて配布するだけです。SCの運営メンバーも忙しい人が多いので、簡単に準備できることは大切です。
千木良:直接話したことがない人も、シートを通じてお互いを知ることができています。コミュニティー内の有名人が生まれたり、推し合ったりして、コミュニティー全体が活気づくきっかけになっています。
中川:ファシリテーターは、事前にメンバーのシートを見て準備しますが、絞り込み機能を使って一覧を見ると複数メンバーのファイルを1つずつ開かずに確認できる点も助かっています。一方で、絞り込む前にぱっと目に入った人のシートを見れる点もチームタクトだからこそ得られる嬉しい副産物です。その人の進化を見て、私も頑張ろうって励まされます。
また、タームの締めくくりで、ファシリテーターがチーム横断振り返り会に向けて1名を選出する際にも、閲覧しやすいので助かっています。
千木良:一度SCを辞めて、時間をおいてあらためて参加する人もいるので、アーカイブ機能もありがたいです。アーカイブ解除すれば、以前のシートをまた見ることができるのです。
ー参加者が自律的にコミュニケーションできるように、どのようなサポートをしていますか?
中川:本人の心地よさを大事にしています。当日、シートに書いていなくても、その場にいて、話すだけで価値があると伝えています。話していただいている最中に、ファシリテーターや他のメンバーがシートに書き込み代行することもあります。欠席しても、チームタクトでコメントをもらうこともできます。このような私たちのコミュニティ運営の方針にぴったりの動きができるのはチームタクトならではだと感じます。
タームごとに開催するチーム横断会をきっかけに、チームタクトで他のチームのシートを見にいく人が増えています。
千木良:タームごとにリアルでの振返りも行っています。オンラインで毎週会っている人たちとのリアルの集まりは格別です。
Slackの全体チャンネルで、「この人の今週のシートがいいよ」とポストされることもあります。ファシリテーターによる推し活ですね。
さらに、ファシリテーターには週1回、振り返りの機会があります。チームタクトでファシリテーターとしての振り返りを記入して発表し、ファシリテーター同士で感じたことをシェアします。月次でファシリテーター勉強会も開いています。
自己効力感UP 自分らしさ発見 「職場の仲間」のような関係づくり
ーSCにどのような効果を感じていますか?
中川:何気ない毎日も、シートに書くことでできていることに目が向くようになります。共感してもらって癒され、自分にとってはあたりまえにできている強みに気づき、自分を大切にできるようになっていきます。私も、そのような段階を経て、自分一人でやろうとせずチームで活動できるように変化してきています。
千木良:個人が変わり、社会が変わることを目指すikumadoを支える根幹となるのが、SCです。毎日、0.1でも気づきや学びを意識して行動に移す、その積み重ねで変化していきます。多重ロールをどうやりくりするか、毎週、仲間とシェアして学び合う、それをチームタクトでシートに書き残し続ける、習慣化という筋トレをしているわけです。
中川:2021年1月から参加していますが、私自身もかなり変化したと思っています。自分の強みに気づかせてもらったり、他のメンバーの人生観に触れて影響を受けたりしてきました。うれしいことも弱みも聴いてもらえるSCの参加者のことは、真の仲間だと思っています。
千木良:新たな状況下では、「うまくやらなきゃ」と思うからこそ、できていない部分に目が行きがちになります。このようなネガティブな状況を、誰かと一緒にやりくりするのがマネジメントです。キャリアに育児が加わるタイミングでの「できない」自分を変えていく経験は、仕事の場で未知の新規プロジェクトを率いる場合など、自分をスケールさせていくチャンスに不可欠な経験ともなり得ます。
中川:復職するタイミングも「できない」自分になりがちです。利害関係のない仲間と行うSCで心の安定を得ながら、成長し続けている参加者も増えてきています。
ーSCから生まれた取り組みを教えてください。
千木良:今、人気上昇中なのが、「ゆずりは日記」です。ikumadoのInstagramでご覧いただけます。「自分のチームにプロ級のイラストスキルをお持ちの方がいるから見てほしい」という、1人のファシリテーターの推し活から注目が集まっていました。そこに、「5人育児とキャリアを両立していて、面白い振り返りをしている人がいるからマンガにしてもらえば!」と、周りが盛り上がって始まった取り組みです。
中川:パートナーシップ部や多様な子育てサポート部も盛り上がっていますね。ikumado内の部活について、SCを通じて知って、参加することもよくあります。
千木良:家族チーム化(チーム家事)部は、一人の参加者のたまかつに他の参加者が影響されて、毎週、それぞれがこのテーマで振り返りをするような取り組みになってきました。
ikumadoモデルの新たな活動の連鎖に期待
ー今後、SCでやりたいことはありますか?
千木良:「らしさ」からのコミュニティ内コミュニティ(部活スレッド)が立ち上がって盛り上がることに期待しています。自発的な活動の延長線上に、社会を変える事業のスモールスタートが見えてきます。
あるメンバーが家族を共に生活するチームとみなし、家族で家事の役割分担をするという取り組みを行なったことをシェアしてくれました。この取り組みが注目され、他の人が真似してやってみるという循環も見受けられます。
チームタクトで各自が振り返りしていること自体が、ニーズや行動パターンの把握、課題の抽出など、事業ヒアリングと同じような価値を持っているのですよね。日々のシェアコーチングの中で既存の社会を良い方向へ変革するための種を見つけ、自発的にコミュニティーや事業を、ikumadoメンバーの手で創出していってほしいのです。
ー今後、チームタクトをさらにどのように活用したいですか?
中川:お互いのシートをさらに見たくなるような仕掛けができると良いと思います。まずは、シートを見たら「いいね」を押すことを意識してもらうことで、今までにプラスしてお互いのシートを見てもらえるのではないでしょうか。
千木良:AI分析、ワードクラウドといった面白い機能を、SCの魅力発信に活かしてみたいです。
多重ロールのマネジメントが、ハードルまたは盲点になりやすい人や組織に
ーSCのような取り組みをどのような人や組織に勧めたいと思いますか?
千木良:多重ロールで、いつも時間が足りない状態の人や組織にこそ、日々の変化を振り返る時間を敢えて確保する取り組みが必要です。
中川:会社からも自分でも期待が高いがゆえに、「できない」自分に自己嫌悪に陥りがちな人にお勧めしたいと思います。
千木良:職場の心理的安全性を高めたい組織や、ダイバーシティ推進を進めたい組織にはぜひ取り入れていただきたいです。強みも弱みも開示し合って、何を引き受け、何を手放し、何を人に任せるか、選択して判断する力を高めることは個人にも組織にも価値があります。組織の中で、少数派に類されるような人材(例えば、育休からの復職者や女性管理職)に着目してSCのような場を設けてみてはいかがでしょうか。