「教える」から「自ら育つ」企業教育へ。学校教育の「探究×協働」を取り入れて実現する若手社員の自律

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若手社員
自律
主体性

「若手社員にもっと主体性を持って欲しい」
「言われたことはやるけれど、自分から動こうとしない」

多くの企業の人事担当者や現場マネージャーから、このような悩みが尽きることはありません。

一方で、現場のOJTに目を向けると、「先輩の背中を見て覚える」という従来のスタイルが通用しなくなっている現実があります。

私たちコードタクトは、少し特殊な立ち位置にいる会社です。 全国2,500校・100万人以上の子供たちの「学び」を支援する『スクールタクト』を展開する一方で、多くの企業の組織開発を支援する『チームタクト』も提供しています。

「学校」と「企業」。この両方の現場を支援しているからこそ、見えてきたことがあります。 それは、「学校教育の新しい潮流こそが、企業の若手育成の課題を解決する鍵になるのではないか」という可能性です。

その鍵となるアプローチが、今学校教育でも取り組まれている「探究」と「協働」です。本記事では、学校教育の知見をビジネスに応用し、若手社員が自律的に育つ環境をどう作るか、事例を交えて解説します

なぜ今、従来のOJTが機能しないのか

若手に求められる「主体性」と現場のギャップ

『人事白書2025』の調査によると、企業が若手社員に最も身につけて欲しい能力の第1位は「主体性」であり、その定義は「自律的であること」とされています。テレワークの普及やビジネス環境の激しい変化により、上司が常に横について指示を出さずとも、自ら判断し行動できる「自走力」が不可欠になっているのです。

ビジネスパーソンの成長機会の内訳を示す「70:20:10の法則」によれば、学びの約7割は「仕事上の経験」から得られるとされています。そのため、多くの企業がOJT(職場内訓練)を実施していますが、ここには大きな構造的課題が存在します。

「属人化」する指導と「教えること」の限界

OJTの現場実態に関する調査では、教える側(上司・先輩)と教わる側(若手)の双方が、「指導担当者によって教え方や内容にバラつきがある」ことを最大の課題として挙げています。

「A先輩とB先輩で言っていることが違う」「そもそも何を教わればいいのかが定義されていない」。このような状況下では、若手は混乱し、上司は「どう教えればいいのか」と疲弊してしまいます。

従来の徒弟制度的なアプローチや、単に業務手順を教え込むだけのOJTでは、企業が最も求めている「自律的な主体性」を育むことは困難になりつつあります。今必要なのは、教えるのではなく「自ら学ぶOS」を若手にインストールすることです。

学校教育から紐解く「自律」のメカニズム

では、どうすれば自ら育つ人材を育てることができるのでしょうか。そのヒントは、実はビジネス界よりも先行して「自律学習」への転換を進めている「学校教育」の現場にあります。

「パズル型」から「ルービックキューブ型」の学びへ

学習指導要領の改訂により、現在の学校教育は「知識のインプット」重視から、「生きる力」を育む方向へと大きく舵を切っています。

正解が決まっている「パズル」を組み立てる能力ではなく、複雑な課題に対し、他者と対話しながら多面的に考え最適解を導き出す「ルービックキューブ」のような能力が求められているのです。

パズル型(従来): 決まったピースを埋めれば完成する。「正解」を早く教わることが最善。

ルービックキューブ型(現在): 一面を揃えても他面が崩れる複雑系。「対話」を通じて最適解を模索し続ける必要がある。

まさに現代のビジネス環境で求められるのも、この「ルービックキューブ型」の対応力でしょう。正解が常に変動する状況下では、「正解を教わる」という受動的なスタンスは通用しません。自分自身で問いを立て、仮説を回し、他者と対話しながら「納得解」を導き出し続ける必要があります。

なぜ、多くの企業が主体性の育成に課題を抱え続けているのか。 その構造的な原因は、学校と企業を比較することで浮き彫りになります。

この図が示す通り、実は学校も企業も目指すゴールは「自律」です。しかし、そこに至るプロセスには違いがあります。学校での学び方は、すでに「探究・協働」を取り入れてアップデートが進んでいる一方、企業はどうでしょうか。向き合う業務は、顧客や市場環境によって常に変化する「変動的(不確実)」なものです。学校よりも遥かに複雑性が高い「ルービックキューブ型」の環境であるにもかかわらず、肝心の学び方は「属人的な指導(上司の経験則)」に頼るケースが多く、システム化されていません。

変動する複雑な課題に対して、個人の経験則だけで教えるのは限界があります。だからこそ、このミスマッチを解消するために、先行している学校の「学びのOS」をインストールする必要があります。それが「探究学習」と「協働学習」です。

探究学習:自律的な行動の「土台」をつくる

探究学習とは、与えられた課題をこなすのではなく、自ら問いを立て、解決に向けたプロセス(情報の収集・整理・分析・まとめ・実行)を回す学びです。

重要なのは、プロセスの起点が「自己決定」にある点です。「やらされる」のではなく、自らの興味関心や課題感に基づいてテーマを選ぶことで、内発的動機づけが高まります。そして、計画と実行のギャップを埋めるために試行錯誤する中で、自らの学習プロセスを調整する「自己調整力」が養われます。これが自律的な行動の土台となります。

協働学習:自律的な成長を「深め、加速」させる

協働学習は、他者との相互作用を通じて学ぶプロセスです。心理学者ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」理論が示すように、人は一人では解決できない課題でも、他者の適切なサポートや異なる視点(足場かけ)があることで、より高いレベルの達成が可能になります。

ここで注意したいのは、単にタスクを分担する「協調」とは異なるという点です。「協働」とは、異なる意見を出し合い、建設的な摩擦を通じて新たな解を創り出すことを指します。チームで対話しながら学ぶことで、自分一人では気づけなかった視点を取り入れ、「深い学び」へと到達することができるのです。

この「個人の探究」と「チームでの協働」をスパイラル状に回していくことこそが、自律型人材を育成する再現性のあるメカニズムです。

マネージャーの役割は「ティーチャー」から「シェルパ」へ

探究と協働が機能する組織において、上司の役割は変化します。 かつての理想の上司は、すべての正解を知っている「ティーチャー(教える人)」でした。しかし、変化の激しい現代において、上司がすべての正解を知っていることはあり得ません。

学校教育の現場では、「自由進度学習」というスタイルが増えています。これは、子供たちが自分で学ぶ場所(教室、廊下、図書室など)や進め方、誰と学ぶかを自己決定し、宣言してから学習に取り組む方法です。

この時、教員は教壇で一方的に知識を授ける存在ではありません。登山におけるガイド役である「シェルパ」のように、生徒の学びのプロセスに寄り添い、必要に応じて伴走し、適切な問いかけを行う役割へと変化しています。

これは企業のマネジメントにもそのまま当てはまります。

部下に対して答えを教える(ティーチング)だけではなく、部下が自ら答えに辿り着けるよう環境を整え、支援する(コーチングやファシリテーション)役割が求められるのです。上司が「シェルパ」としての役割を意識することで、部下の自律が促されます。

企業における「探究×協働」の実践

実際にこのようなアプローチを取り入れて成果を上げている企業の事例をご紹介します。

事例(1) 株式会社NTTデータ:「共創型OJT」による経験の加速

NTTデータ様では、大規模プロジェクトが多い特性上、若手社員の裁量が限定されやすく、一人前になるまでのリードタイムが長いという課題がありました。そこで導入されたのが、アジャイル開発の手法を人材育成に応用した「共創型OJT」です。

取り組みのポイント:

  • 疑似体験の場づくり
    実際の業務とは別に、新入社員がチームを組み、裁量権を持って取り組むプロジェクトを用意。正解のない問いに対し、スクラムを組みながら試行錯誤する環境を提供しました。
  • 教訓のシェア(協働)
    最も重要なのは、各チームが経験した失敗や成功を「教訓(ナレッジ)」として抽象化し、全体で共有する仕組みを作ったことです。
    探究学習は「経験から学ぶ」ため時間がかかるのが難点ですが、他者の経験から得られた教訓をシェアすることで、自分が直接経験していない事象についても「疑似体験」として学ぶことが可能になります。これにより、育成スピードを落とさずに質の高い経験値を蓄積することに成功しました。

事例(2) 大成建設株式会社:「型」の導入と「役割分担」

大成建設様では、若手社員の離職防止と早期戦力化を目的にOJT改革を行いました。かつての「背中を見て育て」というスタイルが通用しなくなる中、導入されたのは「振り返りの型(G-POP)」と「指導体制の分業」です。

取り組みのポイント:

  • 振り返りの型化
    「今週のゴール(Goal)」「計画(Pre)」「実行(On)」「振り返り(Post)」というG-POPフォーマットを導入。若手がこのサイクルを回すことで、業務の進め方が可視化され、自ら計画し修正する習慣(探究)が身につきます。
  • グループリフレクション(協働)
    個人の振り返りを持ち寄り、同期や先輩と共に月次で振り返る場を設定。悩みの共有や相互フィードバックを行うことで、心理的安全性が高まり、孤立感を解消しました。
  • 指導の分業
    従来は一人の上司が担っていた役割を、「業務指導」「メンタル支援・内省支援」などに分割。ITプラットフォーム(チームタクト)上で情報を共有しながらチームで若手を育てる体制を構築し、指導側の負担軽減と質の向上を両立させました。

自律を定着させるための「仕組み」と「テクノロジー」

成長実感を生む「振り返り」の力

「経験」を「学び」に変える触媒となるのが「振り返り」です。

弊社の調査データによると、定期的な振り返りと学び合いの機会がある社員は、そうでない社員と比較して圧倒的に高い成長実感を持っています(実施者の90%以上が成長を実感)。

しかし、これを個人のやる気や上司のスキルに依存させてはいけません。組織として「型」を用意し、運用する「仕組み」が必要です。

例えば、日々の振り返りを記述するフォーマットを統一する、週に一度チームでシェアする時間を業務時間に組み込むなど、制度として定着させることが重要です。

さらに、最新のテクノロジー活用も鍵となります。一人ひとりの振り返りに対し、マネージャーが毎回丁寧にフィードバックを返すのは、業務負荷の観点から現実的ではない場合も多いでしょう。いわゆるマネジメントの「無理ゲー」化です。

ここに生成AIを活用することで、振り返り内容の要約、傾向分析、適切なフィードバックの一次案作成などを自動化できます。

「業務の遂行支援」は上司が行い、「内省の深化」や「メンタル面のフォロー」はAIや専門のメンターがサポートする。このように役割を再定義することで、持続可能な育成環境を構築できるのです。

「個」の探究と「場」の協働を循環させる

若手社員の自律を促すためには、以下の2つの要素を組織的にデザインする必要があります。

  1. 探究(個のプロセス)
    自ら問いを立て、計画・実行・振り返りを行う「型」と「機会」を提供する。
  2. 協働(場のプロセス)
    経験や教訓をオープンに共有し、互いに学び合う「場」と「関係性」を構築する。

不確実な未来を切り拓く「集合知」へ

実は、学校教育が目指す「生きる力」と、企業が求める「自律した人材」。言葉こそ違いますが、その本質は驚くほど重なっています。 学校も企業も、今まさに同じ転換点に立っているのです。一人で黙々と覚え、正解を出す時代から、他者と関わり合いながら、解を紡ぎ出す時代へ。

「探究」と「協働」は、それぞれ独立した概念ではありません。「探究」という個人の深い思考があるからこそ、「協働」の場に質の高い問いが持ち込まれます。そして「協働」による他者からの揺さぶりがあるからこそ、個人の「探究」は独りよがりにならず、より高い次元へとスパイラルアップしていきます。

若手社員が自律的に育つ環境とは、上司が答えを与える環境ではありません。 一人ひとりが探究者となり、互いにシェルパとなり合う。そうした「学びの生態系」がある組織こそが、激しく変化するこれからのビジネス社会を生き抜くことができるのです。

まずは、目の前の若手社員にすぐに「答え」を教えるのを我慢し、「あなたはどう思う?」「そこから何を学んだ?」と問いかけることから始めてみませんか。そこから、組織の新しい探究が始まります。

本記事で紹介した実践事例はこちら

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