デジタル化やDXが進み、社会や働き方が大きく変わる中で、新しいスキルを学ぶ「リスキリング」が重要になっています。しかし、社員一人ひとりが自主的に学ぶだけでは、「なかなか行動に移せない」「学習意欲が続かない」といった声もよく聞かれます。
また、「キャリア自律」が重視される一方で、「学ぶことに積極的な人とそうでない人の差が広がる」「会社が求めるスキルと本人の関心にズレが生じる」といった新たな悩みも生まれています。こうした個人の学習努力だけでは乗り越えにくい課題に対し、組織全体で学びを促進し、変化に対応できる人材と組織を作るための解決策として、「コミュニティラーニング」への期待が高まっています。
「コミュニティラーニング」とは、社員同士がお互いに学び合い、経験や知識をシェアしながら学びを深める学習スタイルです。仲間と一緒に学ぶことで、学習効果の向上、多様な意見交換による新しいアイデアの創出、チーム全体のモチベーション向上といったメリットが期待できます。
ところが、多くの企業がこの「学び合い」の重要性を認識しつつも、いざ実践しようとすると、その仕組み化や制度化に関する経験やノウハウが不足しており、具体的な進め方に課題を感じています。
本記事では、まさにそうした課題を抱える企業の皆様に向けて、弊社が実践するコミュニティラーニングの取り組みの1つである、社内読書会「タクトル」についてご紹介します。今回は中尾隆一郎氏著『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』を課題図書として実施した際の事例です。具体的なステップを丁寧に解説しているので貴社でもすぐに実践いただけます!さらに今回は特別企画として、著者の中尾隆一郎氏をお招きし、読書会後に議論を通じて学びを深める機会を設けました。その様子も合わせてお届けします。
目次
コミュニティラーニングとは?その目的とは?
企業におけるコミュニティラーニングとは、「共通のテーマに関心がある」「特定の目標を達成したい」といったメンバーが集まり、相互に協力しながら学びを深める学習スタイルを指します。メンバー同士が話し合い、知識や経験を活発に交換し合う点が大きな特徴であり、参加者個々のスキルアップを目的としています。
コミュニティラーニングの主な目的は、知識やノウハウを組織全体で共有し、組織力の底上げを図ることです。さらに、参加者のキャリア自律の促進、組織全体の活性化、新しい視点の獲得、部署を超えた良好な人間関係の構築、組織課題の解決、「学び合う文化」の醸成、仕事への意欲向上、エンゲージメント向上など、多岐にわたる効果が期待できます。
コミュニティラーニングの効果やメリット
コミュニティラーニングは、参加する個人と、導入する組織の両方に多くのメリットがあります。
個人にとっては、自身の関心に基づいた学びが「主体的に学び続ける」習慣を育み、将来のキャリアに役立つスキル習得を後押しします。また、多角的な視点で物事を捉える訓練にもなり、問題解決力の向上にも繋がります。
一方、組織にとっては、メンバー間で知識やノウハウが共有され、組織全体のスキルレベルが高まります。多様な意見が交わる場は、新しいアイデアやイノベーション創出のきっかけになるだけでなく、自発的に学び合う風土は、社員同士の信頼関係を深め、組織への愛着や貢献意欲、エンゲージメントの向上にも貢献します。実際に、コミュニティラーニング導入企業の社員は、「仕事への意欲」「主体的なキャリア意識」「エンゲージメント」いずれも高い傾向にあるという調査結果もあります。またコミュニティラーニングは、自律的に学び、変化に対応できる「学習する組織」への変革を後押しし、持続的な成長の基盤となる「学び合う組織文化」の醸成に繋がります。
このように多くのメリットを持つコミュニティラーニングですが、「実際にどのように仕組みを構築し、進めていけば良いのか分からない」「ノウハウが不足している」といった声も少なくありません。そこで今回は、比較的導入しやすいコミュニティラーニングの実践方法として、弊社の社内読書会「タクトル」をご紹介します。具体的な進め方を分かりやすくお伝えしますので、ぜひ貴社での取り組みの参考にしてください。
コミュニティラーニングの取り組み事例「タクトル」
タクトルとは
「タクトル」とは、弊社が実践しているコミュニティラーニング手法を取り入れたオンライン読書会です。
「Takt based Collaborative Telling and Reading」の略で、参加者が主体的に学び合い、短時間で効率的に書籍の内容を理解することを目的としています。
もともとは、「アクティブ・ブック・ダイアログ®(略してABD)」という読書手法を社内版にアレンジしたものです。(ABDは、1冊の本を参加者で分担して読み、各自が内容をまとめて共有し、対話を通じて本への理解を深め、新たな気づきを得ることを目指す手法です)
タクトルのメリット
- 事前読書不要、1時間で書籍の概要を把握:事前に本を読んでおく必要がないため、忙しい方でも気軽に参加でき、短時間で効率的に書籍の概要を掴めます。
- 集中力・要約力・プレゼン力の向上:30分以内で要約を作成し、2分以内で発表するという制約の中で、集中力、要約力、プレゼンテーション能力が自然と鍛えられます。
- 読書習慣がない人も楽しめる:ゲーム感覚で取り組めるため、普段読書に慣れていない方でも楽しみながら参加でき、仲間と協力することで達成感も得られます。
- 書籍の要約と発表動画がナレッジとして蓄積: 読書会の様子は動画として記録され、後から書籍の要約としても活用できます。これは、参加者だけでなく企業にとっても貴重なナレッジ資産となります。
「タクトル」の具体的な進め方
それでは具体的な実施の流れをご紹介しましょう。
<事前準備>
主催者が行う準備は以下の3つです。
- 読む本を決める: 今回は例として『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』を選びました。
- 開催日を決めて参加者を集める: 「参加したい人!」と社内で声をかけます。事前準備がいらないので、直前の参加も大歓迎です!
- 本を分割する: 1人当たりの読むページ数が同等になるように分割します。およそ5〜7分割することが多いです。
参加者は、指定された書籍を手元に用意するだけで、事前の準備は一切不要です。
<当日の流れ(約60分)>
- チェックインと担当決め(約10分): 最初に簡単な挨拶をして、本のどの部分を読むか担当を決めます。参加者が多い場合は、同じ箇所を複数人で担当することもあります。
- 読んで、まとめる(約30分): 担当箇所を各自で読み込み、その内容をチームタクト上にまとめます。1人1ページに収めるため要約力も鍛えられます。
- 発表(1人約2分)+チームタクトの画面を共有/録画: まとめた内容を順番に発表します(チームタクトの画面を共有・録画)。制限時間内に要点を絞って端的に伝える必要があり、プレゼンテーションの訓練にもなります。なお、担当者が複数人いる場合、主催者が指名した人が発表者となります。発表を聞きながら、ほかのメンバーはチームタクトのコメント機能で質問や感想をリアルタイムに書き込み共有します。
コミュニティラーニングの実践!タクトルを実際にやってみた
ここでは、前述したタクトルの流れに沿って、中尾隆一郎氏の著書『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』を課題図書として実際に社内で実施した際の様子をご紹介します。
▼担当決め

今回は14名が参加。希望箇所に名前を書く早い者勝ちスタイルで、まるで人気チケットの争奪戦のように、あっという間に埋まっていきました!
▼まとめ方

人によって、表を使ったり、図を入れたり、ペンで色付けしたりと、さまざまなまとめ方をしています。個性が出て面白いです。
▼コメント欄

発表を聞きながら感想や疑問をコメント。テレビの副音声的に盛り上がったりして楽しいです。普段交流の少ない他部署の人との交流の機会でもあります。
コミュニティラーニングでの学びを深める著者との対話
社内読書会「タクトル」で『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』を実施後、私たちはコミュニティラーニングの一環として、学びをさらに深めるため、著者の中尾隆一郎氏に直接お話を伺うという貴重な機会を得ました。
話題の中心は書籍のテーマである「プレイングマネージャー」でしたが、管理職としてチームを率い、組織の学びを促進する上で重要なポイントがいくつもありました。コミュニティラーニングを推進する立場にあるマネージャー層の皆様にとって、組織における個人の成長やチームのあり方を考える上でのヒントが見つかるはずです。ここからは、その質疑応答の一部をご紹介します。
(Aさん)書籍の中で、プレイングマネージャーの状態が数字で示されていたのが非常に印象的だったのですが、このデータを集めるのにどれくらいの期間がかかったのか、構想から出版まで含めてお伺いできますでしょうか?
中尾氏:数字自体は1週間ぐらいで見つけました。最初のころですね。ただ、それが特殊な例かわからなかったので、複数のアンケートを実施して、大体合っていることを確認しました。
最初のきっかけは、リクルートワークス研究所と産業能率大学総合研究所の調査を見たことです。ほかにも同様の調査がいくつかありましたが、言っていることがほぼ同じだったんです。驚いたのは、マネジメント専任の管理職が少ないこと。部長クラスでも9割がプレイングだと知り、衝撃を受けました。部下に課長がいないなどの理由もあるかもしれませんが、以前の部長のイメージとは異なりました。
(Bさん)知人の会社は製造業の中小企業で、まさにプレイングマネージャーばかりで組織が縦割り、部署間の連携もあまり円滑ではありません。現在、組織改革と生産性向上に苦慮していると聞いております。もし中尾さんが、そのようなプレイングマネージャーが中心となっている会社にコンサルタントとして入られる場合、どのようなロードマップで改革を進めますか?
中尾氏:一般的に、人は変化を本能的に恐れ、現状維持を好む傾向があります。そのため、「変革」という言葉を声高に叫び、性急な変化を強行しようとすると、現場からは反発や抵抗が生まれやすくなります。そうではなく、知らない間に変わっていくように仕向けるべきです。トップが強いリーダーシップを発揮し、抵抗を気にせず短期的に変革を進める西洋的な手術が良い場合もあれば、東洋的な漢方のように時間をかけて体質改善をする方が良い場合もあります。
―なるほど。G-POP※1を導入する場合、これまで数字以外は重視してこなかった現場の担当者からすると、大きな変化に感じるかもしれません。そういったハードルをどう乗り越えれば良いでしょうか?
中尾氏:G-POPシートは、仕事ができる人が自然と行っている思考や行動を可視化したものです。書けなくても仕事ができる人はいますが、仕事ができない人が書けるようになると、仕事ができるようになる可能性が非常に高まります。しかし、残念ながら通常の日報や月報では仕事ができるようにはなりません。なぜなら、それらは報告のためのものであり、管理側のチェックを目的としているからです。
ある企業では、G-POPを活用したグループリフレクションを導入した結果、これまで主体的に行動することが少なかったベテラン社員が、若手社員から尊敬を集めるようになり、自身の仕事に誇りを持って活き活きと取り組むようになったという事例があります。
ほとんどの人が最初に「うちの会社ではうまくいかないかもしれない」と言います。そこで、一番面倒くさそうなチームと、あなたの言うことを聞いてくれて、ご機嫌にやってくれそうなチームを選び、混ぜて試してみることを勧めています。万が一問題が起こっても、後者のチームのメンバーがサポートしてくれるでしょう。実際に試してみると、当初文句を言っていたような人が、若手メンバーから尊敬の念を向けられることでご機嫌に働き出すのです。最初は不満を抱いていた人でさえ、「すごい」と認められ、誰かの役に立つことを喜んでいるのだと思います。真面目に仕事に取り組んでいる人であれば、なおさらそうでしょう。
(Cさん)今回の書籍はプレイングマネージャーが主な対象かと思いますが、私含む、本日参加しているマネージャーではないメンバーに向けて、この本の内容を踏まえて何かメッセージがあればお願いします!
中尾氏:今回書籍ではプレイングマネージャーへの解決策として「やめる」「絞る」「見直す」という3つの提案をしていますが、全ての人にも当てはまると考えています。
サイバーエージェントの藤田社長が、現場の無駄をなくすために「掃除をしよう」と提案した例があります。これは、業務を減らさないと新しいことができないという考えに基づいています。24時間という限られた時間の中で、業務を増やし続けると、睡眠時間や家族との時間を削らざるを得なくなり、長期的には問題が生じます。だから、業務を「減らす」ことが重要なんです。
システム開発の現場ではKPT(Keep, Problem, Try)というフレームワークがありますが、これを続けるだけでは仕事が増え続ける可能性があります。そこで、Stop(やめる)を加えてKPTSとすることで、何かを始めたら何かをやめるという意識を持つことが重要になります。
「やめる」は効果がないものを明確にすることで分かりやすい。「絞る」は対象を絞ることで効果を出す。そして「見直す」は、時間はかからず効果もあるため、後回しにされがちですが、生成AIなどの新しい技術を活用することで、さらに短い時間でより大きな効果を生み出す可能性があります。この1、2年で、見直すことの重要性が増したと感じています。
これはプレイングマネージャーだけでなく、経営者から新入社員、学生など、生産性を高めたい、時間がないと感じている全ての人に共通する考え方だと思います。
―ありがとうございました!
プレイングマネージャーの現状分析から、組織変革の具体的な進め方、人材育成の核心に至るまで、多岐にわたるテーマについて語られ、参加者にとっては明日からの業務に活かせる多くの学びと気づきを得る貴重な時間となりました。
あらためて、今回ご参加いただいた中尾隆一郎氏の書籍はこちら▼
『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』
今回タクトルを行った書籍『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』をテーマに、6月にオンラインセミナーを開催します。著者の中尾隆一郎氏とともに、プレイングマネージャーが直面するリアルな課題を一つひとつ丁寧に紐解き、解決に向けた具体的なステップについて考えていきます。メンバーの状況を可視化し、より効率的なマネジメントを実現するための実践的な方法についてもご紹介いたします。ぜひご参加ください。
セミナーに参加する>

※1 中尾氏との対話で話題に上がった「G-POPを活用したグループリフレクション」もコミュニティラーニング実践方法の1つです。詳細は以下の資料をご覧ください。
「G-POPぐるり」資料ダウンロード>