「名プレイヤー、名監督にあらず」
ビジネスの世界でもよく耳にするこの言葉は、現場で優秀な成績を収めた人が、必ずしも優秀な「管理職」になれるわけではないという現実を表しています。
現代の管理職は「罰ゲーム」とまで言われ、困難な状況に置かれています。
プレイングマネージャーとして自ら数字を追いかけながら、価値観の異なる多様なメンバーを育成し、コンプライアンスにも配慮しつつ、経営層からの高い要求に応える――。
「時間がない」「どう指導すればいいか分からない」「孤独だ」と感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、その苦しみは個人の能力不足によるものではなく、構造的な変化によるものが大半です。
本記事では、曖昧になりがちな「管理職」の定義や役割を整理した上で、現代の管理職が成果を出すために必要なスキルと、組織として取り組むべき解決策について解説します。
目次
管理職とは?基本的な定義と範囲
一般的に企業における管理職とは、組織の中で一定の決裁権を持ち、メンバー(部下)の指導・育成を行いながら、組織目標の達成に責任を持つ役職のことを指します。多くの日本企業では「課長」以上の役職を指しますが、現代においては単に部下を監視・管理するだけの存在ではありません。単なる「管理者」ではなく、環境変化に適応し組織を変革する「経営の分身」、メンバーの自律性を引き出し共に価値を創る「支援者・共創者」としての役割が求められているのです。
階層別に求められる役割と視点の違い
管理職への昇進は、単なる職位の上昇ではなく、「成果の出し方」の根本的な転換を意味します。さらに、管理職の中でも課長と部長では、求められる視座の高さや時間の使い方が異なります。
一般社員から管理職へ:パラダイムシフトの壁
最大の壁は、「自分でやった方が早い」というプレイヤー思考を手放せるかどうかです。管理職の評価軸は「自分がどれだけ頑張ったか」ではなく、「チームを勝たせられたか」に変わります。この変化に適応し、メンバーを支援する側に回れるかが最初のステップです。
課長から部長へ:進む「プレイング化」と組織の近視眼化
本来、部長職は現場の実務から離れ、長期的な戦略策定や次世代リーダーの育成といった「未来のための仕事」に注力すべきポジションです。しかし、実態は理想とかけ離れています。
学校法人産業能率大学総合研究所の調査「上場企業の部長に関する実態調査」によると、上場企業の部長職の95.8%がプレイヤー業務を兼務しており、その業務割合は約4割に達することが明らかになっています1。
本来、戦略策定や組織開発にフルコミットすべき部長までもが、日々の実務に忙殺されている――。この実態は、部長が現場業務から抜け出せない「部長の課長化」を招き、結果として組織全体が長期的な戦略を描けない近視眼化に陥るという、深刻な構造問題を引き起こしています。
混同されがちな「マネージャー」と「リーダー」の違い
よく混同されますが、マネージャーとリーダーは求められる機能が異なります。
- マネージャー(管理・維持):目標達成のためにリソースを配分し、ボトルネックを取り除き、仕組みを整える「監督」のような役割。
- リーダー(変革・先導):ビジョンを語り、メンバーの感情を動かし、変革を先導する「キャプテン」のような役割。
かつては管理(マネジメント)ができれば十分でしたが、変化の激しい現代では、現場レベルでの変革が必要です。例えば、プロジェクトの予算や進捗を厳格に管理(マネジメント)しながら、同時にチームに「なぜこのプロジェクトが必要なのか」という意義を熱く語り、メンバーの情熱に火をつける(リーダーシップ)。本質的には「マネージャー」としての役割(他者を通じて成果を出すこと)が中核にありつつも、そのための手段としてリーダーシップを発揮する、こうした統合的な振る舞いこそが、現代の管理職に求められる条件と言えるでしょう。
管理職に求められる3つの主要な役割
では、現代の管理職には具体的にどのような役割が求められているのでしょうか。大きく3つの領域に分けて解説します。
1. 業務遂行と目標達成(業績管理)
管理職の存在意義とも言える基礎的な役割ですが、その手法は一方的な「命令管理型」から、メンバーの主体性を引き出す「自律支援型」へと変化しています。
- 目標の翻訳と共有
単に「売上必達」と号令をかけるだけでは人は動きません。経営層が掲げる抽象的な「経営戦略」や「パーパス」を、現場が実行可能な具体的指標(KPI)やアクションプランに「翻訳」して伝える能力が求められます。 - 短いサイクルでのPDCA
計画と実行の乖離を早期に発見するため、半期ごとの面談だけでは不十分です。週次などの短いサイクルでの進捗確認を行い、こまめに軌道修正を図ります。 - 意思決定と利害調整
限られたリソース(予算・人)の配分を決定し、部署間やメンバー間の意見対立(コンフリクト)を、組織全体の利益に基づいて調整・解消します。
数字の背景にある「意味」や「社会への貢献」を語り、メンバーの納得感を醸成しながらPDCAを回していくことが、現代に求められる業績管理です。
2. 組織運営と環境整備(リスク管理・労務管理)
部下がパフォーマンスを最大限に発揮できる土台を作る役割であり、近年その重要性と難易度が急上昇している領域です。
- 労務コンプライアンスの徹底
36協定の遵守や有給休暇の取得促進など、労働法規を遵守した運営を行います。これは法的リスクの回避だけでなく、企業の採用ブランドを守るためにも不可欠です。 - ハラスメント防止と心理的安全性
ハラスメントのない環境維持に加え、部下が失敗や異論を恐れずに発言できる「心理的安全性」の高いチームを作ります。心理的安全性が確保されていない職場では、チャレンジやイノベーションは生まれません。リスクを未然に防ぎ、健全な環境を維持することは、成果を出し続けるための前提条件です。 - メンタルヘルスケア(ラインによるケア)
厚生労働省の指針における「ラインによるケア」の主担当者として、部下の変調に早期に気づき、対応します。
データで見る深刻な実態と「二次被害」
パーソル総合研究所の調査3によれば、過去3年以内にメンタルヘルス不調を経験した正規雇用者の25.3%(20代では35.9%)が退職に至っています。さらに深刻なのが、対応に伴う「組織へのしわ寄せ」です。不調者の対応をした管理職の約半数が自身の精神的・業務的負担を感じているだけでなく、45.2%が「他のメンバーの業務量が増加し、疲弊した」と回答しています。早期対応の遅れは、チーム全体の連鎖的な疲弊を招くリスクがあります。
予兆を感じたら「抱え込まない」
同調査では、管理職の約1.7割が「部下が本当に不調なのか分からない(仮病が疑われる)」と感じていますが、実際に仮病を使った休職者はわずか1.0%に過ぎません。この疑念が初動を遅らせる要因になり得ます。「いつもと違う」サイン(遅刻の増加、口数の減少など)に気づいたら、管理職だけで抱え込んで解決しようとせず、速やかに産業医や人事へつなぐ(リファーする)ことが、本人と組織を守る鉄則です。
3. 部下育成とチームビルディング(人材育成)
「人を通じて事を成す」管理職にとって、最大の資産は「人」です。部下の成長支援とチーム力の向上は、組織の持続可能性を担保する「未来への投資」になります。「人が育つ」ことが管理職自身の評価となり、チームの成果拡大につながる好循環を作ることが理想です。
- ストレッチアサインメントと経験学習
人の成長の7割は「仕事の経験」から来ると言われます(70:20:10の法則)。部下の実力より少し高い業務(ストレッチゴール)を任せ、適切な支援を行うことで、座学では得られない能力開発を促します。 - フィードバックとコーチング
一方的な「ティーチング」だけでなく、問いかけで気づきを引き出す「コーチング」が重要です。多くの管理職がネガティブフィードバックに難しさを感じていますが、事実に基づき行動変容を促すスキルは必須です。 - チームビルディングと組織風土の醸成
個人の集合体を「チーム」へ昇華させることが腕の見せ所です。ビジョン共有や心理的安全性の確保によりパフォーマンスを最大化します。調査でも、管理職の成功実感のトップは「メンバーの成長」や「協力し合える職場づくり」にあり、チームの一体感醸成がやりがいに直結しています
管理職に必要な能力・スキル
管理職に必要なスキルを体系的に理解するために、ロバート・カッツが提唱した「カッツ・モデル」というフレームワークが役立ちます。役職が上がるにつれて、求められるスキルの比重は変化します。

1. テクニカルスキル(業務遂行能力)
担当する業務を遂行するために必要な専門知識や技術、ノウハウのことです。業界知識、商品知識、基本的なITリテラシーなどが含まれます。
現場に近いロワーマネジメント(係長・主任など)やプレイングマネージャーにとっては、メンバーの模範となり具体的な指示を出すために不可欠なスキルです。
主な要素
- 職種専門知識(営業手法、プログラミング、経理財務知識など)
- 業務処理能力(PCスキル、ドキュメント作成能力)
- 業務関連資格
2.ヒューマンスキル(対人関係能力)
上司、メンバー、同僚、顧客など、あらゆる関係者と良好な関係を築き、協働する能力です。カッツ・モデルにおいて、ヒューマンスキルは全階層の管理職に等しく重要とされています。
主な要素
- コミュニケーション力:情報を正確に伝え、相手の真意を汲み取る力。
- リーダーシップ:ビジョンを示し、周囲を巻き込んで行動させる力。
- コーチング・ヒアリング力:相手の話を傾聴し、気づきを与え、能力を引き出す力。
- 交渉・調整力:利害関係の対立を解消し、合意形成を図る力。
- プレゼンテーション力:自身の考えを魅力的に伝え、承認を得る力。
3.コンセプチュアルスキル(概念化能力)
物事の本質を見極め、複雑な事象を概念化(構造化)する能力です。上位職になるほど、正解のない問いに対して判断を下す機会が増えるため、このスキルの重要性が高まります。
主な要素
- ロジカルシンキング(論理的思考):物事を体系的に整理し、筋道を立てて考える力。
- クリティカルシンキング(批判的思考):前提を疑い、客観的・分析的に検証する力。
- ラテラルシンキング(水平思考):既存の枠組みにとらわれず、多角的な視点で斬新な発想を生む力。
- 俯瞰力:組織全体や市場全体を高い視座から眺め、全体最適を判断する力。
- 知的好奇心・探究心:変化の兆候を捉えるための感度。
▼管理職育成のポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【向き・不向き】プレイヤーとしての優秀さと管理職の適性は違う
ここで改めて強調したいのは、「プレイヤーとして優秀だった人が、管理職としても優秀とは限らない」という事実です。
このギャップの主因は、成果の出し方が根本的に異なる点にあります。プレイヤーは「自身のスキル」で成果を出しますが、管理職は「他者の行動」を通じて成果を出さなければなりません。かつての名選手ほど、自分と同じようにできない部下に苛立ち、仕事を抱え込んで組織の成果を止めてしまいがちです。
管理職に向いているかどうかは、スキルの有無よりもマインドセット(考え方)にあります。
- 向いている人の特徴(他者貢献・俯瞰)
自分がスポットライトを浴びることよりも、メンバーの成長や成功に喜びを感じられる「利他性」を持っています。また、目の前の事象に一喜一憂せず、組織全体を俯瞰して冷静に判断できる客観的な視点を持っています。 - 向いていない人が陥る思考の罠(抱え込み・固執)
「自分でやった方が早い」と仕事を抱え込んでしまうのは、責任感ではなく任せる勇気の欠如です。また、自分の成功体験ややり方を部下に押し付け、それ以外の方法を認められないプレイヤー思考から抜け出せない場合も、管理職としては苦労します。
これらの適性は後天的に習得可能ですが、そのためにはプレイヤー時代の成功体験や行動様式を意識的に捨てるアンラーニングが必要です。特に、「全て自分で把握しコントロールする」という習慣を捨て、「部下を信頼して任せる(権限委譲)」スタイルへ変容しなければ、早々にパンクしてしまいます。
現代の管理職が抱える課題や苦悩
理想的な役割やスキルを理解していても、現実の壁は厚く、多くの管理職が苦悩しています。
- 「時間がない」業務過多の悪循環
プレイングマネージャーとして個人のノルマも背負っているため、どうしても緊急度の高い「実務」が優先され、重要度の高い育成や未来への投資が後回しになります。その結果、部下が育たず、いつまでも自分が現場から抜け出せないという悪循環に陥っています。 - 「中間管理職」特有の板挟みと孤立
多くの管理職は、経営層と現場の間に立つ中間管理職です。上からは抽象的な戦略を具体的な戦術に落とし込む「翻訳者」としての役割を求められ、一方で下からは現場の切実な課題を吸い上げる「代弁者」としての役割を期待されます。上からは数字を詰められ、下からは不満をぶつけられる板挟みの中で、誰にも弱音を吐けずに孤立している管理職が増えています。 - 価値観の多様化とハラスメントへの萎縮
Z世代をはじめとする多様な価値観を持つメンバーへの対応に正解はありません。「背中を見て覚えろ」や飲みニケーションといったかつての成功法則は通用せず、一方で少し厳しく指導すればハラスメントと言われるリスクもあります。リモートワークで部下の様子が見えにくい中、どう接すればいいか分からず、指導自体が萎縮してしまっています。 - 女性管理職特有の悩みとキャリア形成の壁
特に女性管理職の場合、男性中心の組織文化の中でロールモデルがおらず、「私には無理」とキャリアを諦めてしまったり、ライフイベントとの両立に不安を感じたりするケースも少なくありません。
▼女性管理職特有の悩みや解決策について、こちらの記事で詳しく解説しています。
疲弊する管理職が今すぐ始めるべき「業務仕分け」と「自己変革の習慣」
ではこの過酷な状況を打破するために、具体的にどうすればよいのでしょうか。
今回は、国内における「KPIマネジメント」の第一人者である、株式会社中尾マネジメント研究所代表の中尾隆一郎氏の著書『1000人のエリートを育てた爆伸びマネジメント』4より、具体的なアクションを3つご紹介します。
1. 業務の棚卸しと「やらないこと」を決める勇気
中尾氏は、振り返りの手法として一般的な「KPT(Keep/Problem/Try)」に、「S(Stop:止める)」を加えた「KPTS」を推奨しています。自分の抱えている業務を全て書き出し、「重要度×緊急度」や「時間×効果」のマトリクスにプロットしてみましょう。そして、効果の低い業務については、思い切って「やめる(Stop)」判断を下すのです。
判断に迷う時は、「もし今からゼロベースでスタートするとしたら、この業務をやるか?」と自問してみてください。「やらない」という答えが出るなら、それは止めるべき業務です。全てを自分で抱え込むのは、責任感ではなく「停滞」です。自分にしかできない本来のマネジメント業務に集中するために、「捨てる勇気」を持つこと。これこそが業務遂行能力の要です。
2. 「9BOX」で指導スタイルを使い分け、過剰な支援を減らす
若手指導に悩む管理職の多くは、相手が新人なら「すべて手取り足取り教える」、ベテランなら「すべて任せる」といった具合に、「人単位」でマネジメントを変えようとして失敗します。
しかし、ベテランであっても初めて取り組む業務には支援が必要ですし、新人であっても得意な作業なら任せることができます。中尾メソッドの要諦は、「人」ではなく「業務(ミッション)」単位で関わり方を変えることにあります。
部下の状態を「モチベーション(やる気)」×「スキル(能力)」の9マス(9BOX)で分類し、業務ごとに最適なスタイルを使い分けます。

この分類は、上司が勝手に行うものではありません。対象の業務について、どのボックスに当てはまるかを上司とメンバーがそれぞれ事前に考え、持ち寄って同時に提示し、認識のすり合わせを行います。もし認識がズレた場合は、「モチベーション」については本人の意見を、「スキル」については上司の意見を優先すると合意形成がスムーズです。
このようにメリハリをつけることで、管理職の時間を創出しつつ、メンバーに合わせた最適な成長機会を提供できます。
3. 「手戻り」と「同じ失敗」を防ぎ、生産性を最大化するG-POP
多くの管理職は、目の前の業務をこなすことに精一杯で、「やりっ放し」になっています。その結果、同じようなトラブル対応に何度も時間を奪われ、経験が資産として蓄積されません
この悪循環を断つのが、中尾氏が提唱する「G-POP(ジーポップ)」という振り返りのフレームワークです。

- Goal(ゴール):最初にゴールを明確にする。
- Pre(事前準備):事前に計画・準備をする。
- On(実行):実行する。
- Post(振り返り):結果を振り返り、次につなげる。
特に重要なのが「Post(振り返り)」です。うまくいった仕事から「再現性(勝ちパターン)」を見つけ、失敗した仕事からは「再発防止策」を学ぶ。まずは管理職自身がこのサイクルを回して「手戻り」と「同じミス」を根絶し、自らの時間を確保すること。振り返りは反省会ではありません。管理職自身の時間を生み出し、生産性を最大化するための「投資時間」なのです。
個人の頑張りに頼らない!これからの管理職が活躍するために必要な「仕組み」
ここまで個人のアクションをお伝えしましたが、構造的な課題を個人の頑張りだけで解決するには限界があります。
中尾隆一郎氏は「人材育成は最もROI(投資対効果)が高い投資である」と語ります。今いる管理職を精神論で追い込むのではなく、組織的な「仕組み」で支援することこそが合理的です。
1. 組織の結節点である「ミドル」を孤立させない支援体制
中尾氏は著書『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』5の中で、変化の激しい現代には、トップダウンのスピードとボトムアップの現場感を両立させる「ミドル・アップダウン」こそが最適解であると解説しています。
しかし、この体制の要であるミドル(中間管理職)は現在、パンク寸前です。通常のマネジメントとプレイヤー業務に加え、新たに経営と現場をつなぐアップダウン(つなぎ役)の業務まで求められており、個人の努力でカバーできる限界を超えているからです。
だからこそ、個人の資質に任せるのではなく、組織的な支援が不可欠です。特に育成においては、研修(Off-JT)で「知っている」状態にすることはできても、現場で「できる」ようになるまでには大きな壁があります。
トップや本部機能に求められるのは、ミドルに全てを丸投げすることではありません。ミドルが学んだことを現場で実践し、「理解する」から「できる」ようになるまでのプロセスを「見える化」して、必要に応じて支援することです。三重苦に喘ぐミドルを孤立させず、組織全体で伴走する仕組みこそが、現場を動かす鍵となります。
2. 「グループリフレクション」で時間を創出し、相互学習を促す
「部下全員と毎週1on1をする時間が足りない」「相性が悪い部下との会話が弾まない」多くの管理職が抱えるこの悩みに対し、中尾氏は著書の中で、1on1には「時間・相性・能力・形骸化」という4つの課題がつきまとうと指摘しています。
そこで推奨されているのが、上司1人がメンバー4人程度と同時に対話を行う「グループリフレクション(ぐるり)」です。これは上司が一方的に講義をする場ではありません。メンバーが順番に1週間の振り返りを発表し、それに対して参加者全員でコメントし合う形式をとります。
- 「指導スキル」や「相性」への依存脱却
1対1では上司の指導力が全てですが、ぐるりならメンバー同士がアドバイスし合う「相互作用」が生まれます。上司が答えを持っていなくても、あるいは上司と部下の相性が悪くても、周りのメンバーがクッションとなり学びが成立します。 - 心理的安全性と「関係の質」の向上
1対1だと「逃げ場がない」と緊張してしまう部下も、グループなら緩和されます。さらに、お互いに批判せず感想を伝え合うぐるりのプロセスが「安心・安全の場」を作り、チーム内の「関係の質」を高めます。 - 時間短縮(1on1比で4分の1)
1対1で4人全員と向き合う時間の4分の1で済みます。浮いた時間を本来の業務や戦略立案に充てることで、プレイングマネージャーとしての負荷を劇的に下げることができます。
これは手抜きではありません。1on1の限界を補い、最小の時間でチームの結束と成長を最大化するメソッドです。
3. ロールモデル不在を解消する「コミュニティ型学習」とD&I
【課題】「相談相手がいない」という孤立
女性管理職や若手社員にとって、社内に「ロールモデル」や本音で話せる相談相手がいないという「孤立」の問題は深刻です。無理に社内メンターをつけても、評価や利害関係が気になり、結局「良い顔」をしてしまって本質的な悩みを相談できないケースが後を絶ちません。
【解決策】「師匠」ではなく「コミュニティ」を持つ
特定の師匠を見つけるのではなく、解決策の一つとして悩みやナレッジを共有し合える「相互支援コミュニティ」を紹介します。「JUAS(女性リーダー育成)」や「ikumado(育休・共働きコミュニティ)」の成功事例から、そのポイントが見えてきます。
①「利害関係がない」からこそ、本音が言える
社外や他部署のメンバー、あるいは同じ境遇(時短勤務など)の仲間同士であれば、利害関係がありません。だからこそ、弱みや迷いをさらけ出せ、共感ベースでの本質的な対話が可能になります。
②「推し活」的にロールモデルを発見する(TTP)
完璧な一人を真似るのではなく、コミュニティ内の多様なメンバーの工夫(家事両立、キャリア観など)を見ることで、「この部分はAさん、あの部分はBさん」といった具合に、等身大のロールモデルを相互に見つけられます。 多様な他者の優れた点を「TTP(徹底的にパクる=真似る)」して自分のものにする。この「いいとこ取り」こそが、自分らしいリーダー像を作る近道です。
③相互称賛による自信回復
互いの発表(振り返り)にスタンプやコメントで称賛し合うことで、「悩んでいるのは私だけじゃない」「できていることもある」と自己効力感を取り戻せます。
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進とは、単に制度を整えることではありません。こうした「孤立させない場・居場所(コミュニティ)」を用意し、多様なメンバーが互いに支え合える仕組みを作ることなのです。
まとめ 管理職が機能すれば、組織はもっと強くなる
これからの管理職は、プレイング業務と多様なメンバーの育成という板挟みの中で、成果を出していかなければなりません。
この構造的な課題は、管理職個人の頑張りや意識改革だけに頼っていては解決できません。組織として、管理職が迷わず動き、孤立せずに成長できる「仕組み」を提供することが不可欠です。
そこで有効なのが、チームタクトです。
チームタクトは、本記事で紹介したコミュニティ型学習やグループリフレクション実践の支援を行っています。
豊富な育成知見に基づいたコンサルティングに加え、日々の活動をツール上に蓄積・分析することで、個人の経験を「組織の資産」に変えることができます。AIによる分析機能も備えており、多忙な管理職のフィードバック業務をサポートします。
「管理職の負担を減らし、組織全体で人を育てる文化」を作りたいとお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
参考・引用文献
- 産業能率大学 総合研究所.“上場企業の部長に関する実態調査”. 産業能率大学. 2019-12-10,https://www.sanno.ac.jp/admin/research/f0krqt0000000g7u-att/buchou2019.pdf, (参照 2025-12-18).
- 厚生労働省.“労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために”. 厚生労働省. 2008-09, https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf, (参照 2025-12-18).
- パーソル総合研究所.“若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査”. パーソル総合研究所. 2024,https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/young-mental-health.pdf, (参照 2025-12-18).
- 中尾隆一郎. 『1000人のエリートを育てた爆伸びマネジメント』. かんき出版, 2021.
- 中尾隆一郎. 『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』. フォレスト出版, 2023.





.jpg)











.png)

